第四十二話

ただひたすら走り続けた私が我に返ったのは学校の前に着いてからだった。
学校から遠い訳ではない、でも近い訳ではなかった。
何やってるんだろうなとか思いながらも、それでも帰りたくはなくて近くのベンチに腰を下ろした。
腰を下ろして真直ぐに見えるのは城。
江戸時代からあるらしく、高知でも有名な城らしい。
それでもその城を見るたびに何だか切なくなった。

江戸時代は長曾我部はもう土佐を治めている訳ではないからかと思うけど、それでもこの城の城主は関係はあまりなかった。
だから、自分でも理由ははっきりしていない。
もしかしたら思ってることがそうかもしれないし、冷静に考えてわかるとおりそうではないのかもしれない。


「私はもう元親さんしか恋できそうにない気がする・・・」

なんとなくそう思えた。
実際声に出してみるとその思いも実感できるような気がして辛かった。

「わかってるのにね・・・わかってる・・わかってるよ。
 それでも私元親さんに、どこにも行ってほしくない」

そこにいるはずもないのに私から出たのは元親さんの名前。
何でこんなに元親さんを想えるんだろう。
いつの間にか目頭も熱くなってきた。
その時だった。

「名前!!」

いるはずもない元親さんの姿が見えた。
目の前で元親さんは肩を動かして呼吸してる。

「元親さん・・・?」
「こんな夜中に危ねえだろうが!
 何かあったらどうすんだよ、ったく」
「ご、ごめんなさい」

元親さんに怒鳴られるのは初めてで少し竦んでしまった。
そんな私に構わず説教を続ける元親さん。

「だいたい親御さんまだ寝てるのに家抜けるなんて不良少女かよ、まだ中学生だし。
 親御さん悲しむぞ、それに本来夜ってのは寝る時間だろうが」
「ごめんなさい・・・」
「まあ俺に謝ることはねえ・・・こともねえか。
 どれだけ心配させたと思ってる、お前さんが走ってどっか行くとこ見てどれだけ肝が冷やされたか」
「ごめんなー、ひゃっ!」

謝ることしかできなくてずっと頭を下げ続けていたら、不意に元親さんに抱きしめられた。
一瞬のことでパニックになった私の体は固まって何もできず変な声を上げてしまった。

「も、元親さん」
「黙ってろ。
 お願いだからんな危ねえことすんなよ、お前さんに何か起こったら俺はどうしたらいいんだよ。
 ・・・・・・んな訳で罰だ、黙って抱きしめられとけ」

罰だなんて私にはとうてい思えなかった。
むしろご褒美でしかないと言っても過言では無いことだった。
なんてわかってくれはしないから元親さんには罰だと思えるんだろう。

それでも、罪悪感はあった。
元親さんがただ隣の子供でしかない私をこんなにも心配してくれていて、そんな私が嬉しがってて。

「元親さん、ごめんなさい。
 もう夜中抜け出したりしません」
「おう。
 抜け出すならせめて俺の家ぐらいにしとけ、親御さんに心配掛けんじゃねえぞ」
「はい」
「反省したならいい、もう繰り返すんじゃねえぞ。
 よし帰るか」

元親さんにそのまま体を抱きしめられた状態から抱っこされてしまい、降りようと手足を動かすが強く抱かれ抜けられそうになかった。

「降ろしてください!」
「家に帰るまでは離さねえよ」
「そんな子ども扱いしないでください!
 降ろされても逃げも隠れもしませんから!」
「んなこと言われたって離してたまるかよ、酒の時間を取られた罰だ」
「うっ・・・」

結局何も言えずに黙るしかなかった。
確かに元親さんに心配掛けたのも、お酒の時間を取ったのも悪いと思ってる。
でも、抱っこされるなんて思いっきり子ども扱いだ・・・。

「名前ちゃん?」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・言っとくけどな、俺は名前ちゃん子ども扱いなんぞしたことねえぞ。
 そんなに可愛くむくれられると俺も危なくなっちまうぞ、な?」

そう言って笑った顔を見せる元親さん。
その行為だけでも子ども扱いだと感じてしまうんだけど。

「・・・・・・・・・・・・」

素直になれなかった私は元親さんの体の温かさを感じて黙ったまま抱っこされていた。
この時に元親さんに絡めた腕に力を少し込めて、私の中で少し反抗した。
こうやってできるのも幸せなのかなと考えてる私はなかなか成長できないもんだと結果苦笑いしか私の顔には浮かばなかった。




  


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