第四十話

居間まで通されるとすでに雑賀先生は片手にビールを持っており、鶴姫ちゃんはテレビの前を陣取ってドラマを見ていた。
たまに「ああ、宵闇の羽の方・・・」とか聞こえてくるけどそれは私の聞き間違いだとなんとなく思いたい気がしてきた。

「名前ちゃんも座っててくれ、晩飯にするから」
「私も手伝います」
「そうか、じゃあ悪いが頼まれてくれるか?」
「はい、じゃあ鶴姫ちゃんあんまり近くから見過ぎたら目悪くなるよー」
「はーい、了解です」

鶴姫ちゃんが少し後ろに下がったのを確認して私は元親さんの後ろを付いて行った。
台所に付くとすでに夕飯はできていたらしく、いい匂いがした。

「今日カレー作ってて良かったぜ」
「カレーだと一度に多く作りますもんね、グッドタイミングです」
「じゃあ盛っていくから運んでくれるか?」
「了解です!」


元親さんがお皿に盛ったのを私が何往復かして運びきった。
雑賀先生は相変わらずでビールは3本目に入っていた。

「雑賀先生、お酒強いんですね」
「まあな」
「おいおいサヤカ・・・。
 冷静だけどな、こいつ酒弱いんだぜ。
 証拠にいっつもここで飲んだら潰れて泊まってくからな」
「え、泊まって・・・」

冷静さを保つ雑賀先生にも驚きだけど、平然と泊まっていく雑賀先生にも驚きだった。
やっぱり大人だと何でもできるもんなんだね。

「か、勘違いするなよっ、別に俺はサヤカなんて目にねえからな!」
「え、へ・・・?」

突然慌てだした元親さんを見て私も一瞬慌てるが原因がわからず軽くパニックが起こった。
そんな様子を見て鶴姫ちゃんが溜息をついた。

「ふう、ほんとに海賊さんは下心しかありませんよね。
 名前さんは別に大人って凄いと思っただけです、そうですよね?」
「うん・・・。
 というか元親さん私が何を勘違いしたと思ったんですか?」
「え、それは・・・・・・言えるか!
 あと鶴の字、テレビからもうちょっと離れろ!・・・っ」

言えるかと叫ばれても結局はわからなかった。
その後に話を逸らそうとしてか、鶴姫ちゃんを注意して、それでその後に顔の向きを戻したら目が合って気まずそうな顔をされてしまった。
私知らないうちに元親さんに何かしちゃったのかな・・・。

「すいません、元親さん。
 私帰ります・・・」
「え、どうしたいきなり」
「失礼しますっ!」

元親さんに気まずそうな顔されたのが意外にも凄くショックで軽く涙が出そうだった。
そんな顔を見られてはまずいと思い、悪いと思いながらも居間を勢いよく出た。



夜風に当たると、もう冷たくてそれが身に染みてさらに泣きそうになった。
私も3か月ちょっとで変わってしまったものだよ。
家は隣にも関わらず入れる気がしなくて家の前で立ち止まってしまった。
でも、入らなきゃ駄目な訳で。
仕方ないから目を伏せて家に入った。
幸い親はそれぞれお風呂に入ったり、洗い物をしたりとしていたので私の顔を真正面から見る事は無かった。
私は2階の部屋へ急いで上がり、ベッドにダイブして少し泣いた。





  


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