第二話

日が暮れ、母さんと私はお隣を訪ねた。
チャイムを押してしばらく待っていると、男性の声が聞こえてこちらへ向かってくるような足音が聞こえてきた。


「はい」
「隣に引っ越してきた石谷と申します、初めまして。
 これからよろしくお願いします
 ・・・あの、お母様はいらっしゃりますか?」

大きな家から出てきたのは一人の若い男性。
母さんは家族で住んでると思ったからそう聞いたわけだけど・・・。


「すいません、俺もう一人で・・・」
「ご、ごめんなさいねっ」
「いえいえ、気にならないでください。
 あ、俺長曾我部元親っていいます」

「ーっ!?」

元親・・・?
私は下を向けていた顔を上げた。
目に飛び込んできたのは、日本人らしからぬ綺麗に靡く銀髪に、碧眼。
そして、左目を覆う眼帯。

あの夢の中の元親にそっくりだった。

「ー・・・名前ー?
 ほらっ、ちゃんと挨拶なさい」
母さんから名前を呼ばれはっ、と我に返り長曾我部さんのほうに向きなおる。


「は、初めまして・・・長曾我部さん。
 私名前っていいます。よろしくお願いします・・・」

母さんは私の緊張でうまくできなかった挨拶を笑った。

「もう緊張しすぎよー。
 ごめんなさいね、この子人見知りで、不安もまだあるみたいで・・・」
「いえいえ。
 えっとー、名前ー・・・ちゃん。高知はいいところだからな、時機になれるさ、な?」


『土佐は鬼の住処と聞いておりますー』

「え?」

え、えぇ!?
何言ってるの私!?

「もう何言ってるのよー」
母さんは私が冗談で言ってるんだと思ってるのかからからと笑っている。
長曾我部さんのほうは、目を丸くして驚いてた。


「ご、ごめんなさいっ!長曾我部さんっ、冗談ですから気にしないでください・・・」
夢中で謝ってたものの、何か残ってしまったらしい。
何か言いたいものの言えないという、顔をしている。


「・・・鬼、かー。
 俺は会ったことねぇけどな、お前さんはもう会ってるかもなー?」
「え?」
「いや、何にもねぇよ。
 あー、あと長曾我部さんだ、なんてそんな固くなる必要はねぇよ。
 俺まだ25だからな」

「え、あ、はいっ」

どうしても、夢の中の彼と重なってしまって、後半何を話してるかなんて何も耳に入らなかった。
私はただ、そこに呆然と立ってるだけだった。




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「名前、近所の皆さんいい人そうで良かったね」
「うん・・・」
「それにお隣の元親君、お兄ちゃんより5歳下なんだってね?
 もし何かあったら何でも言ってくれって言ってたし、ほんといい人ー
 ・・・ってあれ、どうしたの?」
「へ・・・?」

頬に何か感じると思ったら、私のそこには涙が伝っていた。

「どうしたんだろ?
 ・・・ねぇ、母さん。私高知初めてだよね?」
「そうよ」

どうしてなんだろ?
元親さんに初めて会った気がしない。
夢の中だと思ってしまうほどに何もかもそっくりで。

「ごめん、母さん。私もう寝る。おやすみ」
「うん、おやすみ」



釈然としない気持ちに感情が昂ぶってその夜ー、
私は一人涙を流していた。




  


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