第一話
14歳になって私は高知に引っ越すことになった。
理由は親の転勤。
そのおかげで、生まれてから14年間生まれ育った岐阜から離れていくことになった。
今となっては岐阜は田舎だと言われているらしいが、昔はここで織田信長をいち早く認めたという斉藤道三がいたというもんだから、なんとなく誇らしかったりしていた。
なのに、いきなりの高知への転勤だ。
温泉がすごく良かったよー、そう友達から聞いたもんだけど年頃の女の子としては少し物足りない。
だからと言って、私はお兄ちゃんのようには残れないけど。
お兄ちゃんは社会人、だからここを離れなくて済む。
「名前、ごめんね急な話で・・・」
母さんはそう言って私に申し訳なさそうな顔を向ける。
さすがにずっとそれを見ているのはやだったので、心配かけないように強がってるのを隠して私は言った。
「母さん、私は大丈夫だから!」
「ほんと?」
「うん、高知に行くよ・・・」
「・・ありがと、名前。じゃあ準備しないとね」
「・・・うんー」
そんなやり取りをしてあれから3週間が経った。
学校の友達とお別れし、夏休みを迎え、私は高知へ来た。
「着いたね」
「うん」
新しい我が家の前での母さんの着いたね、の一言で一気に高知へ来たんだという実感がわいてきた。
ただ今、7月22日5時半ー・・・。
夏休み真っ盛りの早朝だ。
「とりあえず、最低限の荷物を出すから・・・終わったら、挨拶行くけどついてくる?」
「うん、行くっ」
本当に自慢にも何にもならない話だけど、私は昔から人見知りなもので、今回の引っ越し先でもすぐには馴染めないという、残念な自信があった。
それでも、せっかく新しい土地に来たから自分を少しでも変えていこうと決心した。
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荷物の整理をして生活環境を整えていくといつしか時計は10時半を指していた。
もう、あれから5時間も経ってたんだ・・・。
「名前ー、そろそろ行くよー」
「はーい」
エプロンを外し、服に着いた埃を払って、家を出る準備をした。
「母さん、ちゃんと渡すもの持ってきた?」
「大丈夫、本当に心配性なんだから・・・お兄ちゃんにそっくり。
ほら、ちゃんと信州産のよ」
私の人見知りを心配したお兄ちゃんは残らなくても大丈夫か、−とさんざん聞いてきた。
その時を思い出すたびに、あの心配ように笑いそうになる。
「ほんとにね、じゃあお隣から?」
「うん、ちゃんと挨拶しなさいよ」
「わかってる・・・」
それから、母さんと私は近所を回って行った。
しかし、片方のお隣は留守だったために私たちは日が暮れてからその家を訪ねた。
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