廿

午前中は結局元親さんの家でだらだらして・・・
昼食もごちそうになって母さんから帰ると電話があってから帰る準備に取り掛かった。
まあ帰る準備と言っても家は隣同士。
持って来たものがまず少なければ持って帰るものも少ないのは当たり前だった。

「なんかあっという間だった気がするぜ」
「私もそう思います、結局だらだらと過ごしていた訳ですけど」
「まあ俺も久々にこうやってのんびりできて良かった」

そう言って軽く伸びをした元親さん。
伸びをすると更に身長が高くなってやっぱり大人だなとか思った。
まあ大人と言うのは何処からどう見てもわかるんだけど、今日は二人で思いっきりだらだらしていたものだから
頭になかったというか、
凄く近く感じてしまったというか・・・
言葉では言い表せれないけどばりばり働く大人という事実を忘れてしまった、みたいな。

「あーあ、明日からはまた仕事だ」
「頑張ってください・・・というか、私せっかくの休みに遊びにつれて行ってもらった訳ですね。
 申し訳ないです」
「んなこと言ってんなって。
 だいたい俺から頼んだわけだし、俺だって楽しんだしな」

元親さんは私の頭をくしゃくしゃと撫でて宥めるような口調でそう言った。
そう言われてそれは違うとわかっていながらも何も言うことはできなくて。
私は黙り込んでしまった。

「名前ちゃん、俺が言ってることは本当だからな、嘘一個もねえからよ」
「それでも私の為にいろいろしてくれました」
「俺がしたことで名前ちゃんが喜んでくれるなら本望だ、な?
 それにまだ若いんだから遠慮ばっかしてんじゃねえよ」
「じゃあ元親さんだってまだ若いんだからそんな本望だとか言わないでくださいよ」
「ははっ、まあこりゃあ本心なんだけどな」

きっと近所の子供を喜ばすことなんかでも喜びを感じて、
そのために多少の自分の犠牲ぐらい関係ない人なんだろう。
そう思ったら改めていい人だなって感じる。
男前だとも思う。
そして、そのせいで何人もの女性が勘違いしてしまうんだろうなとも思う。

だって。
こんなに格好いい人が自分一人の為に自分を犠牲にしてくれるんだ。
無自覚でやってのけるから自覚あるときよりもタチが悪い気がする。



「もうそんなこと言ってたらいろんな人に誤解されちゃいますよ」

感謝して、元親さんにそう忠告をした訳だけど
返ってきたのは予想外の言葉だった。



「お前さんはしちゃあくれねえのか」




へ?
本当に予想斜め上どころか違う次元に行っちゃった言葉だったものだから瞬間私の頭はフリーズしてしまった。
それが嘘だと気付くのは一間遅れてしまった。


「も、もうしませんよっ、一体何歳差なんですかー」
「そうだな、驚かせちまったな」
「い、いえいえ。
 驚いてもいませんから!」

いやいや、本心本当に驚いたよ。
もう驚きすぎて未だに心臓バクバクしてるよ。

今どんな顔をしているかはわからないけど、無理矢理でも冷静を保つ。
元親さんはというといつも通り平然としている。
まあ中学生をからかう大人はタチが悪いと言うことで私の中でとりあえず納まった。


「お世話になりました!」
「おう、また遊ぼうぜ」

これ以上此処にいたら私の脳内が爆発しそうで。
冷静を保てなくなりそうで。
持って来た鞄を掴み、勢いよく頭を下げて元親さん宅を出た。

最後に見えた笑顔でタチが悪いとか思ってしまったのを撤回してしまった私だから。
もしかしたら、元親さんよりひとつの言動で揺れてしまう私の方がタチが悪いのかもしれない。




  


×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -