第十七話

座っといてくれ、そう言い残した元親さんが戻ってきたのは20分後ぐらい。
何気なくつけられていたテレビを眺め、ちょっと眠くなってきたぐらいのことだった。


「待たせちまってすまねえな」
「いえいえ、って何か凄い綺麗に盛り付けてられてません?」
「ちょっくら頑張ってみたんだけどな」

元親さんが持って来たのは鰹のたたき。
お皿自体は小さいから皿鉢のとかとは違うんだけど、盛り付け方がもの凄い。
綺麗すぎて、オーラが出てる。


「祭りで食べたし軽いもんでいいか?」
「あ、はい、もちろんですっ」

と言っても鰹の量も多いし、ご飯に味噌汁は当たり前のように並べられた。
その他もろもろのおかずたち。
正直言って軽くないですよー。

「成長期だしな、たーんと食べろよ」
「じゃあいただきます」


ほとんど手作りのものらしく、手を付けてみるが・・・・・・

「ん、どうした?」
「・・・・・・・・・え、何これ、凄く美味しい」

とてつもなく美味しかった。
味噌汁なんては毎日飲みたくなるぐらいの逸品だ。
元親さんにプロポーズもしてみたくなるくらいに。


「そう喜んでもらえて良かったぜ」
「もう喜ぶどころじゃないですよっ!
 こんな美味しいお味噌汁は初めてですよ」
「そこまで言われちゃあ照れちまうじゃねえか・・・
 まあ一人暮らしが長い訳だからな」
「一人暮らしでそんな・・・
 これじゃ元親さんのお嫁さんになる人は料理一つでも必死ですね」
「こんくらい誰でも越えれるさ、
 ・・・何ならお前さん嫁に来てみるかってんだ」
「え」


少しお酒を飲んで陽気さが増した元親さん。
それでも、いきなり真面目な顔で嫁に来るか、なんて言ってしまうものだから一瞬理解でしなくて驚いた。
でも、くくっと笑いが毀れるものだから私も我に返る。

「一瞬びっくりしましたよ」
「はは、そうか」
「でも、お料理教えてもらいたいもんですよ」
「それぐらいならいつでも来いよ、・・・レパートリーはそんなにないがな」
「本当ですかっ?」
「ああ、何時でもこい」

じゃあまた今度、そう返して私は再び箸をつける。
知り合いが捕ってきたという鰹もどれも美味しくて料理できる男の人っていいなと憧れるようになった。
今まで男が料理だなんて女々しいな、とか思ってたけどもう元親さんのおかげで思考が180度ガラッと変わってしまった。




「ごちそうさまでした!」

そんなに言うほどお腹が空いていた訳でもなかったのに私は出されたものをぺろりと平らげた。
元親さんはお酒をちょこちょこ飲んでいたのできっと私の方が多く食べてしまったと思う。




「おっとまだこんな時間か、寝るのにはまだ早いよな・・・」
「そうですね、いっつも夜更かししてなくてももうちょっと後ですし」
「そうか・・・ああ、縁側がすげえ涼しいんだよ、来るか?」
「そんなに暑そうに見えましたかね・・・?」


パタパタと手で風を送ってた私を見てか、元親さんは苦笑しながら縁側への招待をしてくれた。

連れられた縁側では予想していたよりも風が吹いていて心地よかった。
空を見上げると月が浮かんでて、日本家屋の屋根との相性がとても良くて日本っていいな、風流だなって感じられる。

「酒を飲んでていいか?」

そう言った元親さんの手にはすでに徳利と御猪口が握られていた。

「ここで飲むのが好きでな、でもたまには誰かの隣で飲みたくなっちまうんだ」
「お酌してもいいですか?」
「おう頼むぜ」


私は徳利を受け取って元親さんにお酌しながら月を見ていた。






  


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