第十六話

お風呂から上がって、だいたいの用意を済ませて元親さんの家を訪れた。
インターホンを押してみたけれど、誰も出ない。
そういや、元親さんもお風呂に入るって言ってたっけ?
このまま待ってた方がいいかなー?

一度玄関に近づいてみたけど、さすがに勝手に入るのは躊躇われたので馬酔木を戻そうとした途端、どこかの窓から元親さんの声が聞こえた。

「名前ー、鍵開いてっから入ってくれ。
 俺もすぐ出るから」


これは入っていいってことになるんだよね。
申し訳なさもあるけど、ここまで言わせておいて入らないのもどうかと思ったので玄関のドアを開ける。
中は外見同様和風だった。

入った途端屏風が目に入り、やっぱり長曾我部家はそこらの家じゃないんだと感じる。
親泰さんが一人で住んでいるという家も、此処も同様に格が違う。
天は二物を・・・−、とかあるけど完全嘘ですよね。
二物以上与えてるとしっかり思える。


客間だと思われる、入ってすぐのところに腰を下ろさせてもらった途端ダダダーダダーダ〜と重い音楽が流れた。
机に置いてあった元親さんの携帯からだけどディスプレイには『親泰』と表示が出ている。
電話みたいだけど。

プツッ


一回切れた。
あー・・・そう思ったとたんにもう一度音楽が流れだす。
急用かな?
そう思って携帯を持って脱衣場だと思われるところの扉の前に立って元親さんを呼ぶ。

「元親さん、親泰さんから電話みたいですけど、何回も掛けているようなんですけど・・・」
『おお、そうか。
 悪いがちょっくら出といてもらえっか、俺ももう出るから』
「わかりました」

まさか私が出ることになるとは思わなかったけど、ここで出れなくなってややこしくなっても仕方ないので通話ボタンを押した。


『もしもし、兄貴か?』
「・・・もしもし、名前です。
 今元親さんの代わりに出てるんですけど、もう代われるどうなので・・・」
『すいませんね、名前さん。
 兄貴は風呂にでも入ってますか?』
「はい、もう出るみたいですけど」
『それで兄貴に連れ込まれたんですか?』
「いえいえ、晩御飯を御馳走になりにですよ。
 連れ込まれた、だなんて大丈夫ですよ、変なことは起こりません」
『そうだったらいいんだけど・・・。
 もし兄貴が名前さんに変な気でも起こそうとしたならー・・・』
「私に変な気を起こそうとしたなら?」


そこで私と親泰さんの会話が途切れた。
携帯がぱっと取り上げられたからだ。
振り返って見れば、そこにバスタオルを肩に掛けた元親さんがいた。

「ありがとな」
「い、いえっ」

私に一度礼を言うと電話の方に意識を向けた。
声が少し強張っていた。

「で、親泰。
 名前に変な気を起こそうとしたならー、何だ、その先は?」

どうやらさっきの会話が聞こえていたらしい。
元親さんが起こすわけがないのに親泰さんが心配したことについて怒ってるんだろうか。
まあ気持ちはわかるんだけど。
でも、親泰さんが私を彼女だと思っているならそれは別に心配してもセーフだと思うけど、違うのかな・・・。

電話中、元親さんは怒ったり、笑顔を引き攣らせたり様々な表情をしていた。
そうはいってもいいイメージのものは一切なかった。
だから、ちょっと心配になるけど、電話を切ったあと私に向けられたのは笑顔だった。


「じゃあ飯にするから座っててくれ」

そう言った元親さんは笑顔だ。
私が心配する必要なことは無いのだろうけど、やっぱり心配だった。








  


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