第十二話

「うわ、凄い人だかり・・・」

周りは何処見ても人、人、人。
特設会場へ着くなり、あまりの人の多さに目を丸くしてしまった。

「でも、こんな盛り上がりってのもいいもんだろ?
 まあ来年ぐらいなら人通りも少なくて綺麗に見えるところを教えてやんよ」
「本当ですかっ!?」

ぶっちゃけ今すぐに連れて行ってもらっても構わないけど、これは元親さんのご厚意であるから、これはこれで素直に喜ぶ。
喜ぶって言っても、本当に喜ばしいことだし。

「元親さん、ありがとうございますー・・・っ?」

お礼を言おうとしたけれど、それは元親さんの手によって阻まれた。

「言ったろ、敬語もさん付けも無しだって」
「え、あ、はいっ」

一瞬何のことだかわからなくて戸惑ってしまった。
・・・そういや、そんな約束をしたなーと思い出して反射的に返事はしたけど、気づいてから焦る。

「でもっ」
「でも、もねえよな、名前?」

顔を覗き込まれて先程よりも顔が熱くなってくる。
もう顔だけじゃなくて、体中が熱くなってくる。

「・・・・・・わかりました」
「ん?」
「わかった!」
「よし、それだ」

私が言いなおしたことで元親さんは二カっと笑った。
その笑顔が眩しいんだけど、でも目に焼き付けたくてずっと見ていたくなる。

”まばたきさえ惜しくなる”
その言葉が実感できるような気もしてきた。




『皆様、この度は須崎祭りにお越しいただきありがとうございました。
 まもなく、花火があがります。
 右手中央をご覧ください』

そんなアナウンスが聞こえたとたんに手を引かれた。

「元親っ!?」
「せっかく人だかりに来ておいて綺麗に見れなきゃ意味ねえだろうが。
 ほら、もうちょっとだ!」



手を引かれて走って席に着いてすぐに花火は上がった。

「きれー・・・」
「だろ?それに、海上花火なんだ。 
 綺麗じゃねえ訳がねえ」

海上花火だからー?
一瞬疑問に思ったけど、元親さんの横顔を見たらそんな疑問はすぐに吹き飛んだ。
代わりに笑いが込み上げてきてしまう。


「よっぽど海が好きなんですね」
「おう!
 でも、よくこの流れでわかったな」
「元親さー・・・、横顔見てたらわかりますよ」
「はっは、そうか。
 それにしても、お前さんいっこうにその呼び方慣れねえな」
「う”っ」

自分でもわかっててもういいかなーとか思ってたけど、元親さんはしっかりと覚えていたようで。
しっかりと痛いところを突いた。

「・・・じゃあ戻してもいいですかね?」
「駄目だ。
 約束はちゃあんと守らねえとな、・・・名前?」

私の耳のすぐ近くで名前を呼ばれるものだから、吐息が掛かるのも当たり前で変な感じがしてしまう。
もう何度私の体温は上がったら気が済んでくれるんだろう。
夜だっていうのにこれじゃ、熱さで倒れてしまいそうな気がする・・・。

「・・・名前?」
「こっち見ないでくださいっ!
 今いつも以上に顔変なんでっ!!」

主に元親さんのせいで・・・。
顔を両手で、花火は見える程度で隠すがそれはすぐに剥がれた。
というか、剥がされた。

「ほら、花火も見ねえと損だろ。
 ・・・それにな、そんなこと言われて実際に見ねえ馬鹿な男はいねえんだからよ。
 それにお前さんの浴衣姿、見とかねえともったいねえだろ」
「そんなー」
「な、いいだろ?」

優しい声音に私が完全に折れた。
それでも、声に出して答えるのは恥ずかしいので一度頷いた。

ここまで甘い空気を出されたら元親さんの恋愛経験は並大抵なものではないと嫌でもわかってしまう。
ほんと、何でここまで恥ずかしい台詞を簡単に言えるのだろうか感心するけど不思議だ。
・・・今は不思議と言うより恨めしい気持ちの方が勝ってるんだけど。





  


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