第十話

それから、お昼を食べて、いろんなところに連れて行ってもらって・・・
いつの間にか日が暮れようとしていた。
車を走らせていた時だった。

「じゃあそろそろ着替えなきゃな?」
「え?」

着替える?
私は何にも着替えるものはないけど元親さんはあるのかな?

「名前、浴衣は着れるか?」
「はい、一応は着れますけどどうしました?」
「それなら大丈夫だ!・・・ちょっくら俺の我儘に付き合ってくれよ」

私の質問には何も答えずに車はそのまま走り続けた。



車が止まってのはとある民家の前。
というか、民家と言っても凄く大きな和風建築。
到底庶民が住んでいるとは思えないところだった。

「よし、じゃあ降りてくれ」
「あ、はいっ」

とりあえず、立派さに感心しながら車を降りた。
元親さんが玄関を開けるけど、中も外見に伴って立派なものだった。
・・・というか、勝手に入っていっていいんでしょうか?


「親泰ー、来ちゃったぜー!!」

中に向かってそう叫んだ途端にどこからか此方に向かってるような感じでどたばたと音が聴こえてきた。
しばらくして現れた一人の男性。
見ると元親さんそっくりだ。

こいつの前ではしっかり頼むぜ、元親さんが耳元でそう囁いてから親泰と呼ばれた男性に向き直った。

「よお、久々だな。元気だったか」
「・・・・・・ったく、兄貴は。
 元気だったぜ、で、それだけを言いに来たのか?」
「どうせわかってるんだろ?
 今日花火見に行くんだが、浴衣を借りにな」
「はいはい、っていうか、自分んとこあるだろうに・・・。
 それで、彼女さんか?」
「そうだ。
 ・・・ほら名前、もっと前に来いよ」

名前を呼ばれて反射的に前へ出る。
前で見れば見るほどそっくりだった。

「あ、あっ、はー・・・うん!
 初めましてっ、石谷名前と言います」
「あー、俺親泰です。
 この阿呆の弟です、いつもこの阿呆がお世話になってます」
「いえいえっ、お世話になってるのは私の方ですから!」
「おい、阿呆って言われてるのには何も言わねえのかよっー」
「まあ名前さん、どうぞ入ってください」

手招きされて客間らしきところに通された。
親泰さんは浴衣を取りに行くために客間を出た、元親さんに阿呆、と言い残して。

顔は似てるけど性格が少し違った兄弟で、つい笑ってしまった。








  


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