第九話

車に揺られていたら、いつの間にか海がはっきりと見えてきた。

「海だぜ」
「きれい・・・」
「きれいだろ?
 しばらくドライブルートっつう言うところだから窓全開にするぜ?」
「はーい」

窓が開いたと思ったら一気に潮風が入ってきた。
その風の勢いに思わずビクッと反応してしまった。

「ほら、むこうに見えんのが横浪半島だ、よくみりゃ龍の顎みてぇになってんだ、面白えだろ?」
「あ、確かにそう言われればわかります」

東に向かって細長く伸びているから言われてみれば納得ができる。
眼下に広がる紺碧の太平洋は本当にきれいだった。

「ここのな日暮れはすっげえきれいだからできたら見せてやるよ」
「わあ、・・・・・・本当元親さんって勿体無い人ですよね」
「は?」

元親さんは私が何を言ってるのかわからないと言いたそうな表情をしていた。
・・・元親さんはわからないから、そういう人だから、勿体無いんだよね。

元親さんといたらもう会った時間とか関係なしに凄く楽しい。
でも、こういう花火大会とか本来ならカップルとかで行くもので。

「何かもう彼女さんに申し訳ないです」
「は?・・・もしかして俺のか?」
「元親さん以外誰がいるんですか」
「はっはっは、それは誤解だって。
 ・・・っていうか、お前さん敬語だし、ちゃんと約束は守れよなー。
 俺に女はいねえよ、もちろん男も。
 昔は若気の至りーとかあったが今じゃそんなもんはねぇしな」

少し意外だった。
元親さんがもう少し若かれば多少遊んでても失礼だけど納得できる。
しかし、今では何だか一途な男性の像になってることが。
まあ、まず恋人がいないことが驚きなんだけど。

「で、そういうお前さんはどうなんだよ・・・・・・その、色恋沙汰の方は?」
「え、私・・・」

ぶっちゃけてどうなんだろう?
夢の中ではそりゃあ幸せそうに笑ってますよー。

・・・・・・勿論そんなこと言えるはずがない。
言ってしまえば、今から須崎ではなく精神科に直行となるだろう。

「残念ながら私そういう恋とか無理なんですよねー」
「アンチか?」
「そういう訳ではないです。
 何ていうんですかね、理想が高いんですよ」
「あれか?顔とか性格とかそういうのか?」
「いや、そういうのはあんまり気にしない方だと思いますよ。
 ただ、あれです、ずっと自分を好きでいてほしいとか、そういう・・・現代じゃ難しいことですよねー」
「・・・・・・・・・」

重いこと言ってしまったからか、沈黙が流れ始めた。
今更ながらに後悔をする。
何とかして話を出さないとー、そう思って口を開きかけたその途端に端に車が止められた。
そして、外へ出て助手席にいる私を連れだした。

「元親さん?」
「此処にゃあ軽い男なんぞいねえよ、ほら見ろ」

元親さんが指したのは海。

「荒れた日ってな、男たちは愛する女の為に帰ってくるんだ。
 命賭けるほどに好きな奴がいるから男は海へ出るんだよ」

海は穏やかに波打ってる。
でも、荒れたらきっと大変なことになってるんだろう。
そう考えると、男の人って凄いんだと思う。


「元親さん、ありがとうございます。
 何だかすっきりしましたよ」
「そうか、そりゃよー・・・」

その時だった、私のお腹がぐうと鳴った。

「飯食うか」

元親さんに笑われながらも、その一言に反応してしまった私だった。









  


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