卒業(元親)

木蓮の蕾が膨らみ始め、春はもう直前だと感じられる今日この頃。
私たち3年生は、卒業式を終えた。


思い返せば、あっという間の3年間だった。
入学したての頃は大きかった制服も今ではもうきついくらい。これは受験太りとかではなく、成長のはず。


「名前〜、離れたくないよ〜」

「本当。私もだよ〜」


親しい友達と涙を流しながら、別れを悲しんでるけど。
実は実感がまだわいてないので、何故涙が流れてるのかはわかっていない。

友達と離れてしまうのはもちろん寂しい。
だけど、他にも離れがたい人が一人。
ちらりとその人の方を向くと、多くの後輩たちに囲まれる彼の姿が見えた。


「なになに、長曾我部くん?」

「へっ…ええ!?はい!?………えっと、いえいえ」

「本当わかりやすいよね、名前は。卒業なんだよ?これで終わらしちゃ駄目だよね?」


どうしてバレてたんだ!?
一回も私自身の恋バナを言った記憶もないし、長曾我部くんとは実は接点は一番あったのが高1の頃。
だけど、言葉には納得して返事は返そうとしたんだけど。


「そうだよね―、って、どこいくの!?」


言葉を言い終わる前に引っ張られて着いた先というのは、あの長曾我部くんの前。


「名字…?」

「ちょっ、長曾我部くん、えっと」

「長曾我部くん。いきなりごめんね、せっかくだから写真撮ってもらってもいい?」

「ええ!?」


願ったり叶ったりなことだった。
卒業して離れ離れになる前に一度は話したりしたいし、あわよくば写真も一緒に撮りたいと思ってたりもしてた。


「ふふっ、貸し1よ」

「是非今度奢らせてくださいませ」


今日ばっかりは、女である友達が長曾我部くんと並ぶぐらいかっこよく見えた。
そして、その時撮った写真は一生ものの宝物となるのだった。


「そうだ、名字」

「ん?」

「せっかくだしよ、卒アル何か一言書いてくれや」

「あ、うん。じゃあ私もお願いします」

「ははっ、相変わらず硬いな。同い年だってんのに」

「男子と喋る機会がこの3年間なかなかなかったもんでね…え?相変わらず?」

「だって、高1の時同じクラスだったろ?」


あんまり喋ることはなくて。私ばっかり意識してて。

ちゃんと認識されてたってだけで舞い上がってしまう…。
こんなこと女子のあいだの恋バナで言ってしまったら、喝を入れられてしまうんだろうけど。


「ほら、書けたぜ」

「わ、私も。ありがとう、長曾我部くん」

「こちらこそありがとな」


いつの間にか一人長曾我部くんのところに残されてた私なんだけど、卒アルに書かれた長曾我部くんの文字にホクホク顔。
ああ、今日はこの3年間で一番バラ色に輝いた日だな〜。
そう思った矢先だった。


「ん?どうした?」

「ちょ、ちょ、ちょ、長曾我部くん…その、第二ボタン、ないけど…」


留守になった第二ボタンの留め口を発見して、一気に崖から落ちた気分になる。
その気分がそのまま顔に出てしまったのか、長曾我部くんが笑う。


「えらくショック受けてんじゃねえか」

「えっと、いやいや。長曾我部くんかっこいいもんね!彼女にあげたの?」

「くくっ……ふっはっはっは!うちのクラス担任女だろ?だからクラスの野郎共が全員第二ボタン捧げてんだよ。
 見てみ、うちのクラスの他の奴もねえだろ?」

「そっかー」


一人焦ちゃって恥ずかしい。
しかも、長曾我部くん本人の前で表情に出してしまってもしかして気持ちがバレてるなじゃないかと顔が上げられない状態。


「なあ…第三ボタンもらってくれねえか?」

「へ?第三?私でいいならもらうよ」


残された第三ボタン。
心臓に近いとも言えない微妙な場所にあるボタン。

私に気を遣ってくれたのかなと、苦笑いしながらもありがたくボタンを受け取る。


「ありがと〜」

「おう。なあ、ボタンの順番で意味が違うの知ってっか?
 第一は自分、第二は恋人、第三は…」

「第三は?」


その時、手首を掴まれ、体が揺れた。


「俺と付き合ってくれたら教えるけど、どうする?」

「へっ…は、はい!」


あっけに取られたままの私をまた長曾我部くんが笑う。
だけど、その後第三ボタンの意味を照れながら言う長曾我部くんを笑い返すのはもう少し先の話。





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私の半分真実、半分妄想な卒業式の話です笑
この後私はLINEで撮った写真を送るんですが、全身痙攣します。

いざ自分で読んでみると物足りませんね〜。どうしてこれでめちゃくちゃ緊張してたのか過去の自分が意味わからん…。
ちなみに第三ボタンをあげるのは家族だそう。
恋人通り越して家族だなんて、元親は非常に大胆ですね(*´∀`*)




  


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