刑部C

「月が真綺麗よなあ」



明治時代の文豪、夏目漱石はかつて英国の”I love you.”の言葉を祖国の『月が綺麗ですね』という言葉に置き換えた。

興味本位で言ったものの、漱石の考えに則って言ったというのもあながち嘘ではない。
たとえ本意が理解されなくても時を越えて今宵久々に二人で酒を酌み交わして見る月は綺麗だと、ただ月の美しさの評のみを受け取られるのでもいいと思っている。


興味本位なのだから。


いや、それが正しかろう。この世に生を受け、出会ってから日も浅く、このように二人きりで酒を酌み交わすのも初めてなのだから。



「…どうした?」



反応がないと、彼女の方を向けば驚いた表情のままで固まっていたのか、視線に気づくやいなや表情が戻る。


「そうですね、とっても…とっても綺麗ですね」


どこか目は現にいないように感じる。
反応から、自身がこうも情趣を語らぬ者だと思われていたのかと思うと自然に苦笑が零れた。


「我とて情趣は―」
「大谷さん。私死んでもいいです」


言葉を遮り、心のどこかで求めいていたその返答は彼女から酒を離させた。代わりに彼女の手に収まった自身の手。
過去の愛も罪も、皮肉にも全てが月の前に映える。

…今度辿り着くのは幸か不幸か。

それは既に自明であると気付いたら眩暈がした。




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お久しぶりです。
またしてもついったであげたやつですね。
創作意欲はあるんですが、なかなか文章がまとまりませんで…本当なんとかします。




  


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