140214(元親)

「だーから、女子!授業中にはチョコ出すなって言ってんだろうが!
 ラッピングぐらい家でしてこい…ったく、今出してるやつは没収だ」
『えー、ちかちゃんひどーい!!』



2月14日。7時間目。
本日最後の授業。
女子はきっと好きな人に渡す直前なんだろう、チョコを持ってる人はそわそわしながらラッピングとかの最終チェックをして授業を受けていたんだろう。


どうやらそれが先生のご機嫌を損ねてしまったようで。


ため息をつくなり、先生は黒板の前から生徒の机の間を歩いて、チョコを見つけては没収していく先生。
みんなの目にはそりゃもう鬼に見えるんだろう。
だけど、私にとっては願ってもないチャンスだったりする。

授業中、さっきまでは出してなかったけどこっそりと気付かれないように私もみんなと同じようにチョコの入った箱を机の真ん中に置く。



「名字もか…意外っていうか、なんつうか」
「あ、はい、えっと、すいません、授業中に…」
「まあこればっかりは仕方ねえから没収な?」



そう言って先生が私の机の真ん中に置かれたチョコを取っていく。
その途端に気付かれないようにガッツポーズ。
実は私のは、先生宛の本命だったりする。

本当は放課後にこっそり靴箱に入れておこうかとも考えたけれど、こうやって無事手元に渡ったのだから。
ドキドキしてるというか、ホッとしているというか。



「いいな、返して欲しい奴は授業終わってから指導室来いよ」



先生の声が聞こえるけど、返して欲しくない私としては結構身が楽になったもんで。所謂どこ吹く風状態。
残りは先生の授業をたっぷりと観賞しよう。
そう呑気なことを思いながら、私は残りの数十分先生をじっと見つめるのだった。





**********






授業が終われば、さっき没収された子たちはダッシュで指導室へ行っていた。
そんな中私は部室へ向かう。
一応”長曾我部先生へ”なんて書いちゃったからさすがに気持ちは汲み取ってくれるだろう。そう信じている私は渡せたことの達成感から足が軽い、軽い。


そして、部室のドアに手をかけようとした瞬間だった。


「おーい、名字。忘れもん」



後ろから聞き覚えのある声。しかも、私が好きな声…。




「長曾我部、先生…?」


指導室へ行った子は結構な数だっただろう。だからそれなりにチョコ返したり、説教の時間も長いと思ってたのに。
今まさに目の前に先生がいる。



「あ、あとついでに言うと今日職員会議があっから部活ねえぜ?」
「え、そうなんですか。わざわざありがとうございます。じゃあ私帰りますんで」
「ああ、気をつけて帰れ―…だけを俺が言うと思ったか?」
「うっ」




先生宛のチョコのことなのか。はたまた授業中にチョコを出してしまったことなのか。
ドキドキしながら指導室へ向かう先生の後に続きながら歩く。さっきまですごく足が軽かったというのに今は鉛玉がついているかのように足が思い。




「…で、やっぱり授業中にこういうの出してどうした?」


指導室にくるなり、二人きりで向かい合う。
先生の片手に持ってるのはやっぱり私のチョコ。



「バレンタインで浮かれてしまいました。すいませんでした」
「俺が言ってるのはそういうことじゃねえんだよ。…これ、俺が没収だって言った瞬間に出したろ?」
「っ!?」


気付かれてた…!?
きっと今わかりやすい反応をしちゃったんだろう。先生が軽く笑う。


「やっぱりな。…ま、返さねえとな」



あ、やっぱり先生はチョコが誰宛なんかわかってないんだ。
少し寂しくてうなだれた私の頭に置かれたのは軽い箱。



「ごっそうさんな。うまかった」



見上げれば先生の笑顔が眩しくて。
恥ずかしさやら、感激やらで泣きたい気分になる。



「俺宛だったんだからさすがに喰っても文句は言わねえよな?
 ま、言っても俺は教師だから生徒の名字には―」
「い、言わないでくださいっ!」



今までも私が自分からアタックとか、そんなことできてたわけじゃない。
だけど、今まで以上に距離はあけたくなくて。

そんな思いがいっぱいで思わず先生の口を両手で覆った。
だけど、この体勢…。
先生は長身なもんで、いくら女子ではまだ高い方の私でも背伸びして手を伸ばさないといけないのと、勢いでした行動だったからバランスをすぐに崩して先生もろとも綺麗に床に崩れた。私は先生がいたから大丈夫だったけど先生は尻餅ついちゃっただろう。申し訳ない…。



「あ、あ、あ、すいません!!」
「んな気にすんなって」
「だって…っ、あ、すいません、離れます、離れ―」
「あー、名字?落ち着け?」


いつもの声に苦笑が混じりながら、先生は私を抱き寄せて、私の頭の上に顎を置いた。


「あ、あの、先生っ」
「俺の授業に不要物だしといて口答えか?」
「す、すいません…」
「ま、それは冗談としてだ。俺だってさ、こういう返事って決まってること言いたかねえ。
 しかも、相手が名字ときた。ここだけの話、俺のこと”ちかちゃん”とか呼ぶ奴は真面目に答えもしねえけどな」


いっつもはいはい言ってスルーしてる、そう言いながら先生は笑うが、今頭を固定されてるせいで先生の表情が全く見えない。
だけど、その間にも感じる先生の体温とか、笑う時の振動とか…。もしかして私の心臓の音も聴こえてるんじゃないかって思うほどにドキドキしてるんだけど、それを考えることで更にドキドキしてる気がする。
何この悪循環…。



「及第点あげたくなっちまうだろうが」


そう言われて力が込められた腕に、自分から手を伸ばした。





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もうバレンタインより前に考えてたネタなのにほわとデー近づいた今書くという不思議…
しかもどんなんだったか忘れちゃって(´д`)
ちょっぴりショックです












  


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