120214(元親)
2月14日、そう今日はバレンタインデーだ。
世の女の子たちが意中の男性に胸の内の想いを告げる日だ。
そして、私には憂鬱な日でもあった。
いや、私も世の女の子たちに勿論、含まれている。
だけど、憂鬱なのは目の前にいる男が原因だった。
「名前、お前さんからは俺はガチの方しか受け取る気は無いからな!」
「・・・・・・はいはい。いいから、さっさと歩け」
幼馴染の、元親。
元親、もといそいつは歩いているというのにわざ立ち止まって私にそう宣言をした。
ガチー、本命?
長年元親にはチョコはあげてきたが、こんなことを言うようになったのは中学年2年の頃からだったと思う。
可愛らしかったあのころの元親はいない。
男としてチョコを貰いたくなってしまったらしい。
ちなみに、私の鞄にはチョコがいくつか入っている。
友達にあげる、俗に言う友チョコ。
部活で渡し合う、俗に言う義理チョコ。
そして、今までずっとあげたかったけどあげれなかった気持ちが籠った、元親への本命チョコ。
本当は中2から欲しいと言われてあげたかった。
でも、そのころから元親は変わりだしていて、いつしか校内でモテるようになった。
最近では、他校の子が元親に告っているんだとか。
そんなこんなで、いつも私は”義理チョコ”を渡してきた。
ぶっちゃけ、今年もそうなる可能性の方が高い。
学校に着いて元親が靴箱を開けた途端、私から少し距離を取った。
・・・元親のことだからどうせ、チョコでも入っていたんだろう。
今更私に驚きはない。
「元親良かったじゃん、チョコ貰えて。
それ、本命でしょ?」
「な、何言ってやがる!
だいたいな俺はお前さんの本命貰うっつてんだろうが!!」
私の口から出るのは溜息。
理由は、元親の勝手な態度と自分への嫌気。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
周りの視線が突き刺さって痛々しいので私は元親を無視してさっさと教室へ続く階段を上がった。
その後ろを元親が慌てたように付いてきた。
教室へ入ると甘いにおいが私の鼻を掠めた。
どうやら、すでにチョコを交換したりあげたりとしたらしい。
少し見渡してみると朝さっそく誕生したカップルもいるらしい。
見ているだけで恥ずかしくなりそうな初々しさだ。
「あ、あの長曾我部君っ!
・・・ちょっと来て」
クラスメートがこちらへ向かってきたと思えば、やっぱり目的は元親で。
元親も満更でないような顔をしている。
これはこれは・・・。
今年も私が元親にあげるのは”義理チョコ”になりそうだ。
バレンタインなんか、大っ嫌いだ。
こんな甘ったるい雰囲気なんて大っ嫌いだ。
女の子たちにチョコを貰う元親が嫌で、元親にチョコをあげる女の子たちが嫌でー・・・
何より元親にチョコを渡せない自分が嫌だった。
しばらくすると元親だけが帰ってきた。
どうやら、振ってしまったらしい。
顔には”申し訳ない”と書いてある。
学年の中でも可愛い子なのに馬鹿なことをした元親だ。
・・・・・・・・まあ、私自身ホッとするとか最低なことになってるんだけどさ。
「よ、よお」
私が元親の顔をまじまじと見ていたら、少し気まずくなってしまった。
「お、おかえり」
なんとか挨拶は返すがどこかぎこちない。
「なあ名前・・・」
「どしたー?」
「サボるぞ」
「え・・・・・・は?」
元親の言ったことを殆ど理解できないままに、元親に鞄と腕を取られて私は教室を出された。
「ちょ、元親!!」
「いいだろ、たまには。な?」
「サボりって・・・、皆見てたし、それに元親帰ったらもうチョコ貰えないよ?」
「チョコなんぞ、お前さんのがありゃ、俺は昇天できるぜ?」
・・・私のチョコで満足できる?
あんなに可愛い子から貰っておいて断ったくせに、たかが幼馴染の私が今より距離を縮められるはずがない。
私はとっさに手を振り切り、元親の頬を思いっきり引っ叩いた。
元親は頬を抑え、何も言えずにいる。
そんな無抵抗な元親に私はただ愚痴を言いだすだけ。
「元親の馬鹿!
アンタなんかに私はチョコは絶対にあげない。
黙ってきいてりゃ調子のいいことばっか言って、昔はそんなんじゃなかったのにさ!
あの子のチョコで満足できないのならもっと可愛い子に貰えに行けばいいじゃないの。
元親だったら貰える、それは保証できる。
だから、もう私にそんなこと言わないで・・・・・・期待したら私はどうしたらいいの。
知ってるでしょ、私の面倒臭い性格をさー・・・」
「もういい、黙れ名前!」
私の愚痴は元親の熱によって断たれた。
「、元親・・・?」
「俺はお前さんのが欲しいんだ」
「え?」
「好きだ」
元親が私を宥めるように優しい口調でそう言った。
・・・・・・駄目だ、このままじゃ私勘違いしちゃうよ。
「冗談ならもうわかったから、私学校に帰る・・・」
素っ気なくそう言ったのにも関わらず、元親は笑った。
「”勘違い”しろよな、此処まで来たらよお!」
「え?」
「だあ、もういい!
ちゃんと聞いてろよ、・・・
俺はお前さんのことが好きだ!
別にただの幼馴染だとは思ってねぇ、ずっとずっと好きな女だ。
ほら、これ・・・」
元親はポケットから小さなラッピングされた綺麗な箱を取り出して私に手渡した。
・・・何これ?
ラッピングを取り、箱を開けて見るとあきらかに手作りだとわかるチョコが入っていた。
「・・・・・・ここまで来て自慢か・・・」
「んな、わけぇだろが!
・・・最近あるみてぇじゃねぇか、逆チョコって」
「何それ?」
「ええ!?知らねぇのかよ?
あれだ、逆チョコってのはな男が女にあげるチョコだ。
俺みてぇな相手が鈍い可哀想な奴らががんばれるチョコだよ」
まさかの此処できての嫌味。
でも、不快感を上回る、赤くなった元親の可愛さ。
「元親、これはい」
鞄を漁り、元親への”本命チョコ”を取り出した。
「意味わかってんだろうな?」
「逆に意味わかってんでしょうね?」
そう言い合って笑い合う私たち。
元親に気持ちを伝えられただけ私には大きな進歩なのだから。
胸に嬉しさだけが湧いた。
「他の人に目移りしたら、すぐさま捨ててやるんだから」
「おうおう、俺の姫さんは相変わらず逞しいな。
心配すんな、俺は何処にも行かねぇよ!な?」
元親は口にチョコを銜えて、私の口の中へと押し込んだ。
「よし、これでいい。
じゃあお前さんもやれよ?」
「な、何そんな恥ずかしいことをっ」
「何を考えてんだ、そんな恥ずかしがるところなんてないだろ?
それに、これで恥ずかしいってこれからどうするつもりだよ?」
”17年間我慢した、俺に応えられねぇぜ?”
ただその上からの言葉に向きになって私は自ら唇を押し付けた。
「元親のばーか」
「はっ、俺は馬鹿だぜ?」
開き直る元親に、恥ずかしさでそうにかなってしまいそうな私。
でも、こんなことがあってもいいか。
だって、今日は女の子たちの為のバレンタインデーなんだから。
チョコのように融けたって構わないでしょ?
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何とか間に合いました!
バレンタインネタでしたが、本当にもうって感じですね。
ではでは、happy Valentine♪
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