06
私には彼氏はいない。
作る気も今はないし、時間もろくに確保できてないのに作れるかという話だ。
なのにいつの間にか周囲の認識には私に彼氏がいることになっていた。
思い当る節はある。
ありすぎて困るぐらいに。
「元親・・・距離が近い」
「お、そうか?」
幼馴染であるこの元親は昔から一緒にいるためか、なかなか距離が近い。
せっかく違うところで働いてるのに、元親と必ず帰りに会うので何の意味もない。
別に不快だとかは思ってる訳ではないが、このせいで周囲の勘違いが生まれるんだから仕方ない。
お互いの為に駄目だと思う。
「そんなこと誰に対してもやってたら彼女もできないわよ?」
「何言ってんだ、俺が誰にでもこんなに近寄ってると思ってんのかよ?」
「そうだけど、何?
ああ、あれか?幼馴染だから別に男ぐらい近寄っても大丈夫だぜとかそんなところなわけ?」
相変わらず失礼な奴だ。
元親を生まれてからこの方一度も男として意識したことは・・・一回だけ。
しかもほんの数秒。
酒の勢いで一度キスされた時だけ。
きっと元親は覚えてないだろう、私はすぐにその場を去った訳だし。
「にぶいな、相変わらず」
「元親は人のこと言えるの?」
「お前さんに比べたらなあ」
そう言った元親は暗闇に紛れてキスをした。
酒も何も入っていない、素面のままで。
「今度は逃がさねえぜ」
ニヤリとした元親の笑みに目を逸らせずに私は心を完全に掴まれてしまった。
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