好きと言う恋人たち

卒業式が終われば、一気にお別れだという雰囲気が流れてくる。

「名前!寂しかったらいつでも私の元に帰ってくるんだぞ!!」
「帰るって・・・。
 うん、でも寂しかったらかすがのとこ押しかけるから。
 かすがもいつでも会おうね」

珍しく泣いたのか、目を赤くさせたかすがを微笑しながら頭を撫でる。
かすがも可愛いなと思いながら、もう元親に別れを告げなければいけないというプレッシャーが私を襲う。

「あ、謙信様のところに挨拶にいかなければならないんだっ!
 悪い、名前後で落ち合おう」
「大丈夫、私も用事あったし。
 後でねー」

相変わらず表情がコロコロと変わるところが面白い。
初めて会ったときはかすがは本当に大人びていて友達になるなんて思ってもみなかったのに。
こうやってかすがと仲良くさせてくれたこの学校には感謝だ。
校舎を見上げながら笑ってみる。

ああ、これから決着をつけないといけないんだ。
元親の幸せのためなら仕方ない。
惜しく付けてしまったハナミズキのネックレスをぎゅっと握り締めた。





体育館裏に行くと案の定告白されている元親が見えた。
こうなることは予想通りではあった。
だけれども、やっぱり一応私と付き合っているからか元親が断ったところが見えた。


「もーとちかっ!」
「うおっ、名前っ!」

告白をされ終わった後で気が抜けたところだったのか元親の肩が大きく震えた。
こうやって元親を見るもの最後か・・・。
そう思った瞬間に悲しくなってしまった。
でも、私には恋人という立ち位置がなくたって幼馴染という立ち位置が残る。
幸せなことだ、そうやって心を落ち着かせて元親の真正面に立つ。

「元親・・・やっと自由になれる時が来たね」
「え?」
「元親、今までありがとう。
 ・・・私に好きって言ってください」


お別れの台詞だ。
言い切った時、元親も気づいたのかはっとした顔をした。
けれど、しばらく黙ったまま私を見つめた。
その顔がとても男らしく、私の知らないあいだにも成長してたんだと思わされる。


「俺がハナミズキを選んだ理由がわかるか?」
「・・・紫色っぽいから?
 ほら元親紫好きだしっ!!」

悲しくならないように、そう明るく言ってみるものの手を取る元親に体が震えた。
・・・そうだ、私はこんな時に余裕持てる子じゃない。
いっぱいいっぱいだ、そう思い知らされた。


「お願い・・・私辛い、本当は。
 別れなきゃいけないっていうのはわかってる・・・」
「何で別れなきゃならねえんだよ!」
「だって、だって・・・私のせいで元親の悪評が流れてるのは知ってたから・・・だからだから!
 私がなんとかしなくちゃ元親が本気で好きな人に悪評のまま見られちゃうって。
 ・・・もう元親は一途な男だって周りから思われてる、私の役目は終わったの」


いつからなんだろう、私が泣きながら冷静に話せるようになったのは。
きっと苦しさを抑えだした時からなんだろう。
表に出してはいけない、暗示が今こうやって役立っている。


「だからっ、早く言ってよ。
 早く別れて・・・」
「名前・・・目閉じろ」
「え?」
「いいから目閉じろ!」

何故かいきなり怒鳴られ、反射的に目を閉じた。
すると顎を取られて上を向かされた瞬間に唇に柔らかいものが触れた。

「ん!?」

昨日の今日で忘れるはずもない、元親の唇だ。
目を開いて、改て元親の口付けだとわかれば慌ててしまうけれど元親はやめようとしない。
息を吸えば、更に吸い付いてくる唇。

「元親っ・・・」

絶えない口付けに私はただ夢中で元親のシャツを掴んだ。
それも、爪を立てそうになるほどに。


「いいか名前、俺はお前さんに惚れてんだ。
 何を言おうが別れてやる気はねえからな」
「え・・・本気?」
「好きだ、ずっと一緒にいてくれ。
 お願いだから俺の気持ちを受け入れてくれ」

ずっと私だけの片想いだと思っていた。
幼馴染相手の恋なんて叶うわけがないと思ってた。


「私でいいの?」
「餓鬼の頃名前だけには『好きだ』って言うって俺は言ったぜ。
 だいたい名前のじゃねえとこんなこと言わねえよ、馬鹿じゃねえの?」
「どこかで聞いたことある台詞・・・。
 元親、ずっと前から好きでした。
 これからもどうかよろしくお願いします」


そう言った瞬間に私を抱きしめた元親からまた口付けが落ちた。

「元親、好きだよ、大好き」
「俺だって好きだ、名前、好きだ」

元親に包まれる中本当の恋人になれたんだと、頬が緩む。
ああ、何を夢見ようか・・・。

昔何に影響されたのかはわからなかったけれど『甲斐性甲斐性』と馬鹿みたいに言っていた自分に少し感謝した。



かすがと落ちあい、ハナミズキの花言葉を教えてもらって私の頬がまた緩んで元親の頬が赤く染まるのは少し先の話。




  


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