好きと言いたい恋人たち
一体何がいけなかったのだろう。
俺の言葉を塞ぐように唇を奪った名前は泣いていた。
今思えばここのところずっと様子が変だった。
卒業式の日はボタン受け取ってくれやら、卒業したらいろんなところに行こうなやら・・・俺は楽しんでそう言ってはいたが、名前の方はあまり気が乗りそうな感じではなかった。
顔を俯かせたまま、黙って頷くことが多かった。
愛想をつかされたのだろうか・・・。
確かに今まで振り返ってみれば胸を張って言えない過去はたくさんある。
喧嘩することは多かったし、学校をサボったりするのはしょっちゅうだったし、女癖も悪かった。
女癖に関しては俺は深い事情があったと言いたいものだが。
それでも全部彼女は知っていた。
幼馴染で一時期距離を置かれたとはいえ、知らないはずがない。
しかし、それらは一年前から無くなったことだった。
一年前名前に告白されてから自分を変えた。
彼女に嫌われないように、彼女と長く続くように・・・そう願い続け、まともな学生生活を送ってきた。
やっぱりあの時の告白が嘘だったんだろうか。
当時流れた噂。
『長曾我部の彼女は彼氏欲しさに告白した』
耳にするたび彼女は馬鹿ね、と一言だけ呟いていた。
俺も確かに噂通りではないとは思っている。
だけど、他の理由で告白が嘘だと言われたら納得できるかもしれない。
それほどに、付き合っても二人の関係は簡素なものだった。
休日には映画に行ったり、二人でドライブしたり・・・そんな恋人同士のような日々を送ったものの、手は繋いだことなかったし、キスだって初めてだった。
いつからそれを残念に思ったんだろう。
いつから彼女と離れてしまう未来が怖くなったんだろう。
やっぱり・・・惚れていた。
もしかしたら小学生の時からかもしれない。
彼女の言葉に囚われたあの日からか・・・。
初めて気持ちを込めて贈ったハナミズキのネックレス。
『私の思いを受けてください』
ずっと一緒にいたい。
そう思ったのは本心だった。
だけど、俺だけが思ったことなのだろうか。
嫌だ。
離れたくない。
ずっと、ずっと一緒にいたい。
「名前・・・名前っ・・・」
彼女を離した腕を抱いて、悔やみ、そして、願った。
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