好きと言わない恋人たち

『名前正気か!?』


元親への告白をかすがに心配された日はもう遠い日となった。
あの時本当に思いつきのような告白だった。
ただこのままではいけないという勢いだけの告白。

それでも、一年経った今も関係はまだ続いていた。
私と元親のあいだで『好き』という言葉が交わらない故に。



**********



「名前ー、今日何の日か知っているか?」
「んー、卒業式前日?」
「・・・まあそれはあるけども。
 俺らが付き合って一年目だよ」

少し拗ねてるのか、私の方をまっすぐ見ないで元親はそう言った。
本当はわかってる。
もうゴールが見えているのだと。


「元親って本当私より乙女っぽいね」

付き合った日なんて忘れていると思っていた。
だけど、やっぱり元親は私が昔期待した以上にいい男になってしまった。
それこそ、私が本気で好きになってしまうほど。

自分への自嘲を込めて薄く笑う。

「ただの乙女じゃ終わらせねえよ。
 ほら・・・これ俺からプレゼントだ」
「えっ・・・?」

元親がポケットからネックレスを取り出した。

「今は凄いよな、なんたって季節外の花があんだからよ。
 ハナミズキをさ、樹脂加工してみたんだよ。
 綺麗だろ?」

元親はわざわざ私の首に付けた。
首元に存在を主張するハナミズキの花びら。

「ずっと・・・一緒に―」

私を捉えた元親の腕。
先を期待させるような甘い言葉。

全てが嘘だと言われたら私はどうすればいいの。
もう戻れない。


「お願い、言わないで・・・」

無理矢理に言葉をねじ伏せるように、自分の唇を元親の唇に押し当てた。
一瞬のことだった。


初めてのキスはどこかしょっぱい味がした。





  


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