好きと言わない恋人たち
『名前正気か!?』
元親への告白をかすがに心配された日はもう遠い日となった。
あの時本当に思いつきのような告白だった。
ただこのままではいけないという勢いだけの告白。
それでも、一年経った今も関係はまだ続いていた。
私と元親のあいだで『好き』という言葉が交わらない故に。
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「名前ー、今日何の日か知っているか?」
「んー、卒業式前日?」
「・・・まあそれはあるけども。
俺らが付き合って一年目だよ」
少し拗ねてるのか、私の方をまっすぐ見ないで元親はそう言った。
本当はわかってる。
もうゴールが見えているのだと。
「元親って本当私より乙女っぽいね」
付き合った日なんて忘れていると思っていた。
だけど、やっぱり元親は私が昔期待した以上にいい男になってしまった。
それこそ、私が本気で好きになってしまうほど。
自分への自嘲を込めて薄く笑う。
「ただの乙女じゃ終わらせねえよ。
ほら・・・これ俺からプレゼントだ」
「えっ・・・?」
元親がポケットからネックレスを取り出した。
「今は凄いよな、なんたって季節外の花があんだからよ。
ハナミズキをさ、樹脂加工してみたんだよ。
綺麗だろ?」
元親はわざわざ私の首に付けた。
首元に存在を主張するハナミズキの花びら。
「ずっと・・・一緒に―」
私を捉えた元親の腕。
先を期待させるような甘い言葉。
全てが嘘だと言われたら私はどうすればいいの。
もう戻れない。
「お願い、言わないで・・・」
無理矢理に言葉をねじ伏せるように、自分の唇を元親の唇に押し当てた。
一瞬のことだった。
初めてのキスはどこかしょっぱい味がした。
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