好きと言えない恋人たち
『いい元親?・・・男に生まれたからには甲斐性ってものを持たなきゃいけないの!』
いつのことだったか、ドラマや小説に何かと影響されやすい幼馴染が言っていた。
『甲斐性って何?』
俺は今度は何に影響されたんだろう、なんて思いながら口を閉ざすことなく話続ける彼女によくわからない単語について聞き、耳を傾けていた。
『甲斐性ってのはね!・・・んんーっと、ね、とにかく女の子には優しくしなきゃいけないの!
それこそ何人もの女の子を!
だからねっ、だからねっ、女の子のお願いは何でも聞かなくちゃならないのよ!!』
『・・・何でもって。
例えば?』
『むぅ。んー、と、とにかくその子が望むことを叶えなくちゃならないのよ!
私はやっぱり甲斐性持ってない男はごめんよ!!』
なんてめちゃくちゃな話だ。
それなりの年齢になって過去を思い出してみれば笑うしかない。
だけど、当時の俺はかなり本気にしていた。
そして、俺も幼馴染同様少しは恋愛ドラマやらに影響されていたのかもしれない。
あと何だかんだで俺は当時から彼女のことが好きだったのかもしれない。
『じゃあ付き合ってってとかもしも言われたら付き合ったりするの?』
『もちろん!』
『じゃあデートに連れてってって言われたら連れて行かなくちゃならないの?』
『もちろん』
そんな風に彼女に質問を立て続けにしていた。
その度彼女も俺の質問に一言、もちろんとだけ言って返していた。
ただ最後に質問したとき。
『じゃあ好きって言ってって言われたとき好きって言わなくちゃならないの?』
そう聞いたとき、彼女は黙った。
俺は理由もわかるはずなく不思議に思ってただ待っていた。
ただ待って、やっと彼女が開いた口から出た言葉によって・・・今の俺は形作られた。
『付き合っても好きだっていう気持ちは誰にも言っちゃ駄目・・・』
当時俺は小学生だった。
小さい頃はずっと女遊びばっかしてたせいか、彼女の言ってたことはありえないことでしかなかった。
男女の色恋沙汰に自分が身を置いてしまうなんて信じられなかった。
だが、時の流れというのは不思議なもので。
当時か弱かった俺はどこへ行ってしまったのか・・・。
いつしか鬼ヶ島の鬼という二つ名を持つ男、長曾我部元親となってしまった。
そうすれば女は自然に寄ってくるもので。
いつだって彼女が何度も言っていた『甲斐性』という言葉が頭に浮かんでいた。
そして、付き合っていた。
好きでなくたって、彼女が言っていた甲斐性を持つ男になるにはそれしかないと馬鹿な俺はわかってなかった。
そして、好きだって言ってと言われれば別れた。
生まれてきて17年間、俺は名前の言葉を守り『好きだ』と言ったことはなかった。
あの時答えた言葉。
『名前にだけ―』
ちゃんと聞こえていたんだろうか。
恥ずかしがった自分にずっと後悔している。
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