火と化す(誕生日な元親)

今日だけは俺の気分は上がりそうになかった。
理由は言ってみりゃ簡単、誕生日が命日と成りうるかもしれねえからだ。
増してや知らない土地で、過ごしたままだ。
それは仕方ねえだろう。

俺の未来の知名度は残念ながら低い。
それ故か、記録もろくに見つかってない。
5月19日が命日だというのはわかっているらしいが、誕生日はわかっちゃいない。
誕生日は5月と言うことは土佐物語には残ってるんだが日にちまで載ることはなかった。

まあそれはもういいとして。
俺はまだ元の時代に戻れてねえ。
だから祝ってくれる奴はいねえ訳だ。
もちろん俺を置いてくれてる奴が冷たいとかそういう訳じゃねえ、むしろ言えば祝ってくれそうな奴だ。
簡単に言えば、俺が名前に自分のことろくに話してないから祝ってもらえねえ。
今日だって普通に朝出勤していったわけだしな。
多少の寂しさとか・・・ちょっとぐれえ感じたっていいよな?
野郎共とかのことを懐かしんでも許されるよな?

暖かい窓辺で遠くを見ながらなんとなく元の時代の景色と重ねた。



**********



「っ!?」

いつの間にか寝ていたらしい。
外を見るともう真っ暗だ。
・・・俺朝からずっと寝ちまってた訳だな、もちろん晩飯の支度もしてねえぞ。

勢いよく立ち上がってみると下に何か落ちた。
掴んでみると柔らかい感触、毛布だった。
あー、もう名前帰ってきてたのかよ。

部屋を出てみるとリビングにもう明かりがついており名前が帰ってきてたのがわかった。
そして同時に甘い香りが鼻をくすぐった。
名前が台所に立っているので何か作ってるんだろう。

「あー、元親起きたの、おはよー」
「おう・・・何作ってんだ?」
「おかえりの前にそれ聞くか・・・。
 まあいいや、これはねー、秘密」
「えー、何だよ?」

そんな俺の疑問にも答えようとせず、座っとけと背を押して椅子に座らせられた。

「おいおい、俺まだ晩飯の支度してねえんだー・・・ってあれ?」
「いいじゃん、たまには私が作ったって」

机の上には既に晩飯が並べられていた。
バケットに葡萄酒、サラダ、肉の焼いたやつ・・・あきらかに豪勢な食事だった。

「どうしたんだよ、これ」
「作ったの、頑張ったでしょ?」
「今日なんかあったのか?」

そう振り返って聞いてみても名前の姿はすぐ後ろにはなかった。
台所に戻って行ったらしい。
後を追って台所まで見に行くと同時に「できた」という声が聞こえた。

「名前?」
「元親誕生日おめでとー!!」
「え、何で・・・」

よいしょ、と名前が持ち上げて俺に見せたのはケーキだった。
あのケーキ屋とかでしかろくに見れないホールのケーキだ。
上のところには”祝!もとちか”と書かれてる。
ちなみに蝋燭にもう火がついている。

「名前、ありがとな」
「べ、別に、私日頃から元親にお世話になってる訳だしっ!
 私が世話になってる奴の誕生日にも何もしない恩知らずな女だと思ってる訳?」
「・・・そうだな」

照れるといつもと変わってつんつんしてしまうのがこいつだ。
でもそんなところがほんとに可愛いと思う。

来年だって再来年だってこうやって名前に祝ってほしいと思ってしまう俺がいた。
いつ戻れるんだろうか、そんなことばかり考えてた俺なのに。
矛盾してるとはわかってる。
それでもそれだけ名前に惚れている訳だろう。

だから俺が戻っちまうまではこうやって祝われるのもいいよな。

蝋燭に付いた火はすぐにでも消える。
それでもその火は心の中に残る。

それと一緒で俺も名前の中にずっと残っていたい。


「名前」
「んー?」
「ありがとな」

ほんとは”俺を忘れるなよ”そんなことを言いたかった。
でもそれを言っては男が廃る。

だから名前に押し当てた唇にそれを込めた。

真っ赤に染まる名前の顔。
蝋燭の火のせいだっていうが、そんなこと誰が本気にするんだよ。
それに蝋燭の火も俺も名前、アンタの中にずっとしぶとく残り続けてやんだ。
考えてみりゃ、俺のせいだと言ってたって言っても過言じゃねえだろ。

俺が生まれて22年。
俺が死ぬまであと残り39年。

あと何年名前と一緒にいられるかなんてわからない。
もしかしたら明日にだって別れが来るかもしれない。

それでも俺は名前、ただこいつだけを生涯愛し続ける。
名前の笑顔を見てそう決めた。




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5月19日は元親の命日ですね(′;w;)
それでも誕生日もその日だというあんまり確かでない気もする説もありますから。
あえて誕生日をメインにさせていただきました!
アニキもう降ってきたらいいですよねノ




  


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