需要がなかろうが候
2014/01/20 00:57

「もう仁王なんか知らない!」


中学へ入って三年目、もう幼馴染の彼女にずっとそう言われ続けている気がする。

物心ついた頃からお互いを知っていた俺たちはそりゃ近所でもからかわれるもの仕方ないほど仲が良かった。俺も本心嬉しかったりもしていた。

…じゃが、中学へ入る頃になればお互いにそれは気まづくなる原因としかならんかった。それに加えて俺のレギュラー入り。
もともとは兄貴に気持ちを抱いていた静をふりむかせるのが目的だったのに、それが仇となった。

いつしか距離ができて名前はお互いに仁王、広瀬呼び。
何とか話すことができても俺が素直になれず『もう仁王なんか知らない』…そう言われて会話が終わる。
それがずっと続くのが嫌だった。でも、俺にとっては距離がもっとできてしまう方が嫌で、まだこの関係に安堵していたのかもしれない。


『好きです』


静が俺以外の男にそう言われるまでは。








その日、運良く部活がなかったので急いで家に帰った。
そして俺は…気付けば兄貴にイリュージョンしていた。


「ははっ…情けないもんじゃのう」


生まれた腹が同じならその分元も似ているわけで。鏡には力なく笑う兄貴がいた。誰も見破ったことのないイリュージョン。もう俺は兄貴の姿しか縋る術は残っとらんかった。





「よう、静じゃねえか」
「あ…チカ兄」


外に出て今帰ったように装って静に話しかけた。


「どうした、暗い顔して?」
「ちょっといろいろあってね…」
「なら茶でも飲んでけよ、話ぐらいなら聞いてやれるから。ほらよ!」



強引に静の腕を引き、家に入れた。
…我ながら完璧な兄貴じゃ。


「そんで、何があった?」


お茶を出し、一息ついたところで口火を着る。


「まーくんに言わない?」
「…話の内容が内容ならな」


安心しろ、そう言ったところで静もホッとしたのか笑みを浮かべる。それとは逆に俺の中では未だに静が兄貴の前で俺のことを”まーくん”と読んでいることを知り、ドキドキしてしまったんじゃが。


「告られたの」
「…雅治にか?」
「ううん、クラスメイトに」
「そうか。そんで、お前さんどうしたいんだ?」


俺が一番知りたい答え。
告白した仁王雅治以外の男を選ぶのか、仁王雅治を選ぶのか。

本当は前者を静自身が選ぶなら祝福するつもりだった。だけど、そんな余裕…俺には到底残ってなかった。


「私は…」


口が開かれ答えがでる。



「チカ兄…」


ソファに並んでいた状態から俺が静に押し倒された形となり、口には出さないが内心混乱する。


「私だってずっとずっと心に決めた人がいたの、それも何ヶ月とかじゃないの。もう物心ついた時からなの…!」


うつむきながら叫ぶように話し出す静から涙と思われる雫が落ちる。


「…その人に、どうしたいと思うんだとか言われたくなかった!」


ああ、やっぱり。

静は今でも兄貴が好きなんじゃ…。


「”告られた”って行った時ももっと反応して欲しかった!」


俺にはもう黙って聞くことしかできん。そう思った時だった。想像もしていなかった言葉が耳に届いた。


「まーくんの馬鹿!告白されてるとこ見ててそんなに面白かったの?イリュージョンなんかして…ずっとずっと好きだったのに。
 もう…仁王なんか―」


俺のイリュージョンがばれてた…?
そのことに驚きを覚えるが、その前に。静かの言葉を最後まで言わせてはいけないと、体が動いていた。
唇を塞げば、目を見開く静の顔が目の前にある。



「…俺だって静かのこと好きじゃ。
 じゃけど、中学入って距離できて、俺のことだって仁王って呼ぶし」
「だってまーくんのファンクラブ怖かったし」


噂には聞いたことはあったがやっぱりか。だけど、苦笑する静が愛しくて全てのしがらみから解放された気分に陥る。



「全てのもんから静を守る。じゃから、俺と付き合ってくれんかの?」
「守ってくれる?」
「勿論。俺の詐欺があれば怖いもんなしぜよ」
「私はわかったけどね」
「そんだけ俺のこと好きだって思って見てたからじゃろ、ノーカンじゃ。
 で、返事は?」


もう逃がすまいと抱きしめながら聞けば、赤くなった顔になる静。


「…お願いします」


そんな静から紡ぎ出された言葉に健全な男子中学生な俺はまともにしていられるわけもなく、柄にもなく顔が熱くなりおった。




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