日本支部にいる祓魔師たちが動く波に乗って移動すると、辿り着いた場所は中庭だった。
雪男よりも先に辿り着いていたのだろう、窓から中庭に向けて銃を構えている祓魔師の中から勝呂を見かけると戦況を確かめるために傍に駆け寄った。

「勝呂君」

「ああ、雪男…やなくて、奥村先生」

任務中なので勝呂は切り替えるようにして雪男の呼び名を訂正した。
仕事の時は雪男ではなく、奥村先生と呼んでいる。逆にプライベートの時は雪男と呼んでいるせいか、最近こうやって間違えて呼んでしまう事が多々あった。
別に呼び捨てでも構わないと言いたいが、今はそれを言っている場合じゃない。

「悪魔が出たと聞きましたが」

「窓見た方が早いですよ」

窓の方に視線を向け、見るように促すと雪男はそっと覗き込んだ。そして意外な人物に目を見開く。

「アマイモン!?」

それは間違いなく彼だった。
地の王であるアマイモンが中庭の噴水で腰かけ、距離はあるといっても十人いる祓魔師たちに囲まれ銃を向けられているというのに、退屈そうに足をブラブラさせながら飴を齧っているのだ。
足元にいる彼がいつも連れているヘビモスも一緒だ。
どうやら彼が結界を潜り抜けてきた悪魔らしい。だがどうしてわざわざこの敵地でもある騎士團内にやってきたのか。

「おやおや、一体これはどういうことでしょう?」

雪男と共についてきていたメフィストが眉をしかめる。どうやら彼のことはメフィストも知らなかったようで、彼の突然の訪問にさらに首を傾げるしかない。

「まあいい。とりあえず話をしてみましょう」

そう言って中庭に出るメフィストに愛用の銃を構えた雪男も続いて出て行った。

「おい、アマイモン。これは一体どういうことだ?」

「ああ、兄上」

敵に囲まれているというのになんの興味も示していなかったアマイモンがようやく反応を示す。
するとメフィストの背後にいる雪男も視界に捉えると。座っていた噴水から立ち上がり、ポケットから紙を取り出した。

「“ああ、ここであったがヒャクネンメ、オロかなニンゲンどもよ!カクゴしろ!”」

ありえないほどの大根役者。突然の事に雪男は戸惑った。
人を闇へと誘う演技でもないだろうそれは酷かった。棒読みだし、台本だろう紙を堂々と見せている時点でアウトだ。
もしもこれがどこかのオーディションなら即失格ものだろう。

雪男が一体なんなのかと必死に考えている間もアマイモンは長々と読み流すような単調な台詞を続けた。
他の祓魔師たちも動揺を隠せないようだ。メフィストはとりあえず黙ってアマイモンの台詞を聞いていた。
するとアマイモンが行動を起こした。

「“くらえ!!アクマのテッツイ〜〜!括弧ここでジシンをおこす括弧閉じる”」

ただし威力は弱めで、と最後に呟くと、アマイモンは言葉通り腕を振り上げ地面を殴ると微弱な地震を起こした。
なぜ括弧の部分も読んだと色々突っ込みたいが、グラリと揺れた地面に足を取られつつも雪男はアマイモンに向けて銃を発砲する。
するとそれを合図に銃を持ちアマイモンを囲んでいた祓魔師たちも一斉に発砲した。だが微弱ではあるが地面が揺れていると的を当てにくくなる。それに相手はあの地の王アマイモンだ。
そう易々と撃たれてはくれない。


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