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騎士團内の廊下を歩き、理事長室と書かれたプレートの扉をノックすると、中から「どうぞ」と声が掛かる。
「お疲れ様です、奥村先生」
いつもの食えないような笑みで雪男を迎え入れたのはメフィストだった。
雪男が今年で二十五になっても彼は初めて会ったときと変わらない姿のままだ。
「こちら、報告書になります」
「ありがとうございます。すいませんね、今日は誕生日だというのに」
「いえ、仕方がありませんよ」
雪男は今日が誕生日だった。十二月二十七日。
去年までは任務が入っても断っていたが、今年からは休日でも受けるようになっていた。ほんの少しでも彼との約束を叶えられるようにと、身体を壊したりしたら彼や友人たちに怒られそうなので、無理のない程度に引き受けているのだ。だがそれでも今日は約束があるのでなるべく早く帰りたいとは思っている。
「この後、誕生日パーティーをするだとか。本当に仲が宜しいですね」
「皆さん、気を使ってくれてるんですよ」
今年初めての、彼のいない誕生日だから。
雪男は自分の言った言葉に少し切なさを感じた。
彼が物質界から去ってそろそろ一年になるかならないかの年。
彼の活躍のおかげである程度の悪魔の被害は少なくはなったが、それも微々たるものだった。
旧魔神の悪魔たちは人を襲い、現魔神の悪魔は人と触れ合う。
彼の思い描く世界はまだまだ先のようで、それでも彼が言ってくれたいつか迎えに来るという約束を雪男は信じ続けていた。
「お祝いをされるというなら、これ以上お時間を取らせるのも悪いですね」
奥村先生の報告書ですから不備なんてないでしょう、とメフィストは受け取った報告書の中身を確認することもせず机の引き出しへと閉まった。
「ありがとうございます。それではしつれ「敵襲!!悪魔だ!!」
誰かも分からない叫び声が上がった。だが確かに聞こえた「悪魔」という単語。
雪男は嫌な予感がした。確かに燐に協力したいという気持ちはあるし、そのためなら努力を惜しまないつもりだ。
だがそれでも友人たちが祝ってくれるパーティーには行きたい。
雪男は「おやまあ」と驚いたようにしているメフィストにこそりと視線を向けると、彼と目が合った瞬間、ニンマリといつもの牙を見せる嫌な笑みを向けられた。
「奥村先生、お仕事ですよ☆」
メフィストはこの後の雪男の約束も知っている。だがそれでもメフィストの結界を掻い潜ってやってきた悪魔だ。早急に手を打たねばならないのも分かっている。
だがそれでもこう思わずにはいられない。
「…悪魔」
「ええ、貴方の大切な半身と同じ、とっても素敵な悪魔ですよ☆」
かくして雪男は騎士團内に侵入してきた悪魔のせいで、大切な予定が大幅に狂う事となった。
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