「兄さん」

「ん?」

痛みのせいか笑ったせいか目に涙を浮かべて、燐は横になったまま顔を上げた。幼い表情に自然と頬が緩む。

「誕生日おめでとう」

自分でも驚くほど落ちついた優しいトーンだった。燐も数秒目を瞬かせてから、サンキュ、と破顔する。

「雪男も、誕生日おめでとう」

寝転がっていた体を起こして兄から発せられた言葉もまた、いつになく柔らかい。
穏やかな空気だ。珍しく。慣れていないぶん気恥ずかしくて動けずにいれば、じっと雪男を見つめていた燐がいたずらっぽく笑った。

「んで、キスしねぇの?」

「……え?」

「さっきしようとしてたじゃん」

お前がしないからオレがしたんだろ!と燐は唇を尖らせる。何を言われたのか咄嗟に理解できなかった頭がようやく追いついて、雪男は羞恥に体を震わせた。
何故あんなことをしようとしてしまったんだろう。出来ることなら過去を消し去ってしまいたい。無防備に眠る相手に、勝手に口付けようとしていたなんて。勝手に。眠っている、相手に。

「……っていうかいつから起きてたの、趣味悪いよ」

浮かんだ疑問をぶつければ、みるみる燐の表情が不満の色に染まっていく。

「もともと半分寝て半分起きてたんだよ!……っていうかお前こそなんだよ!キスしようとしたくせに顔近づけたまま動かねーし!」

「それはっ」

「どーせ寝てんのに、とか考えてたんだろめんどくせー!」

メガネ!ヘタレ!意気地なし!ホクロ!次々に繰り出される単語に、だんだんと雪男も腹が立ってくる。
黙れ、と燐の頭を掴んで引き寄せれば、その直前に見えた表情が上機嫌に笑っていたので、雪男は思いっきり深いキスで黙らせてやったのだった。




HP→Lilac/望月ゆう様

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