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「ところで兄さん。」
「ん?」
「随分テレビに食いついて見てたけど、何かあったの?」
「おう、ちょっとな。」
僕が席に座るのと入れ違いに、流しへと席を立つ兄さん。僕の分のコーヒーを入れながら続きを喋る。
「星座占い見てたら、昔のこと思い出しちまってさ。」
「昔?……あぁ、あの『双子座』のこと?」
「そうそう、それ。なんか、そしたら懐かしくなってさぁ。俺もお前も、成長したなぁ、って。」
差し出されたマグカップを受け取る。一口、口をつければブラックコーヒーの苦味がふわっと広がった。兄さんは相変わらず、マグカップのココアをフーフー冷ましている。
「あの後、鼻水垂らして泣きながら何度も何度もしつこく『俺達は双子座じゃないのか?』って訊いてきたよね。」
「うぐっ…、そんな恥ずかしいことまで覚えてんのかよ…」
「そりゃあ、あんなに泣き付かれればね。その後しばらく喧嘩した後みたいに、口も利いてくれなかったし。」
「…話すんじゃなかった。」
「なんで?」
「もう絶対忘れてると思ってたのに。俺が忘れてたことまで覚えてやがって、恥ずっ」
よっぽど恥ずかしくなったみたいで、兄さんはもう次の番組に変わったテレビへ目をやる。ニュース番組では新しい年に向けてか、デパ地下やらネット通販でのおせち料理特集をやっていた。クリスマスが終われば、あとはもう年末へ向かって一直線。美味しそうな栗きんとんが映っていた。もうあと二、三日したら、兄さんの買い物に付き合わされるに違いない。
「ところで、」
「うん?」
「今日はどうだったの、順位。」
「えぇとな、確か5位だった。」
「可もなく不可もなく、だね。でもさ、兄さん。」
兄さんがマグカップに近付けていた顔を上げる。
「今日の僕達の運勢ってさ、1位に負けないくらい幸せなんじゃないかな。」
そう言うと兄さんははにかんで、照れ隠しのためか、「だな。」と言うと残りのココアを一気に飲んだ。
「よし、じゃあそろそろ買い出し行くか。」
兄さんが立ち上がる。僕もコーヒーを飲み干して立ち上がる。兄さんはダウンコートを、僕はダッフルコートを着込んだ。マフラーを巻きながら兄さんが尋ねてくる。
「雪男、今日の夕飯は何が良い?」
「今日は兄さんの食べたい物、食べて良いよ。」
「マジでッ!?」
「冗談なわけないでしょ?泣きつかれても困るし。」
「ぐぇっ、まだその話を引き摺るのかよ…」
「で、何が良いの?」
「もちろん、スキヤキ!!そうだ雪男。その…、ケーキも食べたいなぁ。なんて思ったり、…しねぇ?」
恐る恐る、僕に伺ってくる兄さんに一言「良いよ。」と言えば、ぱあっと顔を綻ばせて、
「苺のたくさんのったケーキも買って良いのか?やった!!」
じゃあ小さいケーキを何種類も買って…。とケーキを買う算段をしはじめた。あれこれと考えている間に、僕もマフラーを巻き終わったし。
さてさて、
「行くよ。」
手を差し出せば、温かく柔らかい手がのせられる。お互いに寄り合って、そうした隣に並ぶ。何となく幸せな気持ちになって笑い合った。
「「ハッピーバースデー」」
驚いた。それは兄さんも同じだったみたいで、目が丸く、口が半開きになっている。けれどそれが面白くなって、僕達は肩を、顔を寄せ合ってまた笑い合った。
1/365の確率でキミに会えたこと
(ボクは神様に感謝する)
Happy Birthday,
Okumtra twins!!
-fine-
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つぶつぶつぶ/阿部きみひと様
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