4

「兄さん!ちょっと来て!」

短くそう言うと、雪男は燐の手首を掴んだまま、ぐいぐいと引っ張って教室を出て行った。
制止する燐の声を無視して、鍵を使って入った場所は自分たちが暮らす旧男子寮。雪男の勢いは止まらず、そのまま屋上へと連れてこられた。
見慣れた屋上では夕日が最後の明かりを力いっぱい輝いていた。

「兄さんの馬鹿」
「はぁ?!」

ずっと掴まれていた腕をようやく放されたかと思うと、同時に暴言を吐かれた。

「僕が誰よりも先に言おうと思っていたのに。誰よりも先に祝おうと思っていたのに」
「おい、お前、怒って・・・」
「兄さんが起きたら朝一番に言おうと思ったのに、急な仕事は入るしっ。帰ったら直ぐに言おうと思ったら、コレだし」
「おーい、雪男くん?」

そっぽを向き、ぶつけようの無い怒りを延々と口にしていたかと思うと、急に燐に視線を合わた。

「兄さん!」
「は、はいっ」
「誕生日おめでとう!!」
「えっ、あっ、ありがとう」
「遅くなってごめんね」
「そ、そんなっ。お前こそ誕生日おめでとう!」

状況に驚いて言葉がまともに出なかった燐が、慌ててお祝いを口にすると、雪男はクスリと笑ってコートのポケットから小包みを出した。

「色々考えたんだけど、これにしたんだ」
「なんだよ、これ?」
「誕生日プレゼント。開けてみて?」

燐は言われるまま小包みを開けると、そこには見慣れた小さな十字架のアクセサリーが光る携帯ストラップが入っていた。

「お、お前これってジジィのっ」
「うん、神父さんもスペア眼鏡持っていたから一つ拝借したんだ。きっと、神父さんも祝いたいと思っているだろうし」

それは二人の養父・藤本獅郎が愛用していた眼鏡ストラップの一部を取ったものだった。
十字架の中心には小さなブルーダイアが埋め込まれていた。

「僕はグリーンダイアを入れたんだ」
「・・・俺、なんも用意してない」
「だろうね・・・僕が祝うことを止めようって言ったと思ってたみたいだし」
「ご、ごめん・・・」

燐は、ストラップを両手で握り締めて、本当に申し訳なさそうに背を丸めていた。
心なしかいつも尖っている耳も垂れ下がっている様に見え、彼の心情を忠実に表す尻尾は元気なくたらりと垂れ下がっている。
雪男は小さくため息をついた。本当、馬鹿ほど可愛いってやつだよね。

「いいよ。毎年、美味しい料理を作ってくれてたんだもの。今年は特別ってことで」
「や、でも・・・」
「ねぇ兄さん。僕たちが出合ったのって、凄い凄い奇跡的な確立だって知ってた?」

そういいながら、雪男は燐の頭を優しい手つきで撫で始めた。
燐は気持ちいいのか、擦り寄るようにしてゆっくりと雪男の側に近寄った。

「双子が珍しいって話?」
「ん〜、凄く簡単に言うとそうだね」
「なんとなく、分かるぞ」

説明は出来ないけどと、燐は小さく呟いた。

「兄さん・・・一緒に生まれてきてくれてありがとう」

自分より少し低い位置にある片割れの額に優しくキスを落とす。
共に誕生した喜びを込めて。

「俺こそ、ずっと一緒にいてくれてありがとう」

そういって、自分より少し上にある雪男の頬に軽くキスを落とす。
共に過ごしてきた日々に感謝して。

「来年こそは、僕が一番にお祝いするんだから、覚悟しててよね」
「お前こそ、覚悟しろよ」

互いに甘い唇にキスを求める。これからの未来に誓いを込めて。


---------
HP→BlackCherry/黒櫻様

novel


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -