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その間、しえみは自身の使い魔「ニーちゃん」から色鮮やかな花々を出して、花瓶へと生けた。
出雲は鍵で朴の部屋に行き、朴と共にプレゼントと子猫丸特性のケーキを運んだ。
子猫丸は、自分の鞄から昨日、志摩と勝呂の三人で作った巻物状の垂れ幕を取り出し、紐を解くとその一辺を宝に持たせた。
あとは、主役の二人を同時にこの部屋に上手く入ってもらうだけだった。
授業開始2分前。双子の声がする。どうやら誘導係りの二人も上手くやってくれたようだった。

「志摩くん、兄さん、何やってるの?もうすぐ授業だよ」
「あれ?雪男、なんでお前までいんの?シュラの授業だろ?」
「知らないよ、シュラさんに聞いてよ」
「にゃははっ。細かいことは後で説明すっから、お前ら早く入れ」
「ほらほら、奥村くん早く入って」

志摩が燐の肩を掴み、教室の扉へと押し進める。
それにならって、シュラも雪男の背中を肘で押す。

「ほら、ビビリ後が痞えてるぞ♪」
「押さないで下さいよ。入りますから、一体何なんですか、あなた・・・」

雪男がシュラに悪態を付きながら扉に手を掛け開ける。

パン、パン、パンッ

「「誕生日、おめでとう奥村兄弟!!」」

乾いた大きな音に、色んな色の紙テープが宙を回っている。
一瞬、二人は何が起きたか分からなかったが、視線の少し下に子猫丸と宝が持った垂れ幕で何が起きたのか理解できた。
そこには誰が書いたのか達筆な文字で『お誕生日おめでとう!』と書いてあった。

「えっと、これは・・・」

言葉を無くしていた雪男が先に口を開いたが、その言葉を奪うが如く燐が叫んだ。

「もしかして、クリスマスパーティーか?!」

固まったのは主催者たちだ。
この期に及んで、クリスマスパーティーだと?!
仕方ないのだ。
奥村兄弟はクリスマスパーティーが誕生日パーティーだったのだから。

「兄さん。今、誕生日って言ってただろ?そこにも誕生日って書いてるし!ってもしかして『誕生日』も読めないの?」
「ち、ちがっ。言葉のあやだ」

すかさず間違いを訂正され、慌てて対応するいつもの双子に一同肩を撫で下ろす。
どうやら、喧嘩して誕生日を祝うのを辞めたわけではないらしい。

しえみが、二人の手を取って用意した机の前に連れて行くと、他のメンバーが手際よく飲み物の配布や、紙皿などを人数分用意した。
何時ぞやの合同誕生会の再来を思わせるその盛り上がりは、落ち込んだ様子をずっと見せていた燐を充分に笑顔にした。

そういえば、燐は身内以外に誕生日を祝われたことがない。
雪男は学校、祓魔塾り、職場等で、これほど大掛かりな事は無かったが、それなりに祝って貰ったがある。
きっと心から嬉しくて、楽しいに違いないと、塾生と共にはしゃぐ燐を遠くから見ていた雪男はそう思った。

「どうだ雪男。楽しめてるか?たまにはこういうのもいいだろ?」
「授業をどうするんですか?おかげで、僕の予定も狂いましたよ」
「お前ら、今年から互いの誕生日祝わないことにしたんだってな?燐のヤツ、しょげてたぞ」
「僕は忙しい身ですから」

期待通りの言葉が返ってくると、シュラは小さくため息をついた。コイツ、本当にいつか禿げるなと。

「中学ニ年の時です」

雪男が燐を見つめながら、口をゆっくり開いた。

「任務で中々予定が揃わず、先延ばしになり続けていたパーティーが、ようやく全員の日程が揃い、兄は朝から料理の準備をしていたんです。でも、緊急な任務が入って、その日もキャンセルになったんです。いつものことだし、兄も深くは聞いてきませんでした。僕らも悪いなとは思っても、深く心に留めていませんでした。・・・後から修道院の方に聞いたんですが、兄さんは準備していた料理を途中から違うメニューに変えて作っていたんです。一人、泣きながら。もう、一人で待たせることをしたくないんです。僕だって辛い。だから『パーティーは辞めよう』って言ったんです」
「勿体無いことしてんなー」
「勿体無い?」
「お前、双子が生まれてくる確立って知ってるか?一卵性で0.4%。二卵性は、一卵性より少し多いが、やっぱり珍しい。多産児は、色々問題もある。その中でお前たちは無事に生まれてきたんだ。もっと、互いを祝っていいんじゃないのか?私は、お前たちが生まれてきてくれて、出会えてよかったと思っている」
「そんなこと・・・貴女に言われなくても、僕はちゃんと祝うつもりです」
「パーティーはしないんじゃなかったのか?」
「こういった手の込んだ誕生会をしないと言っただけです。祝わないとは一言も言ってませんよ」
「燐は、そう思っていたみたいだぞ」
「ったくあのバカ兄っ」

雪男はそう吐き捨てるように言い放つと、物凄い勢いで燐に近寄った。


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