2

でも、
「なんで・・・約束、したじゃんか・・・?」
出てくるのは情けない声だった。
掠れていて、明らかに動揺している声。
自分でもよく聞き取れない。
『ごめんね』
心臓がぎゅうと締め付けられるような感じがした。
息がうまく出来ない。
苦しい。
手からするりと携帯が滑り落ちて、布団で跳ねて床に落ちた。
今の俺には、そんなものに構っているほどの余裕がなくて。
視界が潤んでゆらゆらと揺れる。
今まで雪男が約束を破ったことなど一度もなかった。
だからだろうか。こんなに辛いのは。
先程のカップルが頭に浮かぶ。
もしかして、彼女とか、そんで、一緒に・・・。
そこまで考えてぶんぶんと頭を振る。
そんなわけない。雪男がそんなことするはずない。
人を裏切るような、そんなこと・・・。
小さく背中が上下し始めた。
口から、抑えきれない嗚咽が漏れる。
雪男は忙しいんだからと自分に言い聞かせるが、ついに涙が頬を伝った。
「ゆきお・・・」
そう呟いた瞬間、がちゃりと勢いよく扉が開かれる。
「ただいま、兄さん」そこにいたのは、先程の電話の主、雪男。
俺の脳がまた固まる。
また、先程と同じようにゆっくりと動き出したけれど、目の前の状況が理解できない。
さっきの電話は誰からだった?
さっきの電話の内容は?
なんで俺は泣いた?
自分に問うてみた。
答えは出る。
しかし今の状況とこれっぽっちも一致しない。
「すごい顔してるね」
くすくすと笑いながら雪男が近付いてきた。
祓魔師のコートを着てるってことは任務帰りってことだよな・・・。
あれでも帰れなくなっちゃったって言って、そんで、ショック受けて・・・。
「泣くほど悲しかったの?」
涙を拭われてやっと俺の口が動いた。
「おま、え、え、なんで・・・?」
「ただ帰ってくるだけって言うのはつまらないなあって思って。ちょっとしたサプライズってやつだよ」
驚いた?とにっこりと笑われた。


「兄さんごめん」
「・・・」
「ごめんったら」
「・・・・」
「悪かったよ」
「・・・・・・・・・・」
はあと僕は溜め息をついた。
兄さんは布団をかぶって黙ってしまった。
なんでと聞いたきり、一言も喋らない。
やり方が悪かったなあと思う。
やっていいことと悪いことがあるってのはきっとこういうことだ。
正直言って、恥ずかしかったのだ。
約束を楽しみにしていることが、兄さんにばれてしまうんじゃないかと思うと、ものすごく恥ずかしくて。
だからサプライズと言って自分の心を落ち着けてたのだ。ものすごく浮かれてたから。
・・・それにしても、この落ち込みよう。
もしかして、かなり楽しみにしていたのではないか。
兄さんは分かりやすい人だし、第一こういう気持ちは隠そうとはしない。
・・・ごめん兄さん。僕すごくひどいことした。
どうするかと考えていると、つんつんと手をつつかれた。
見ると、兄さんが少しだけ布団から顔を出してこちらを見ている。
どうしたのと聞く前に、兄さんの口が先に動いた。
「手」
「手?」
「・・・手、繋いだら許してやる」
その言葉に僕は瞬きを何度かして、微笑むと、白くて綺麗な手を包み込むように握った。

「おい・・・」
「どうしたの?」
「どうしたのじゃねえ!抱きついていいなんて一言も言ってない!」
「抱きつかれるのやなの?」
「・・・やじゃない、けど・・・」
「じゃあいいよね」
「よくない!」
「ほら兄さん、ちゃんと手握って」
「・・・。来年はサプライズとか絶対なしな」
「・・・考えとくよ」

サプライズの理由として、恥ずかしかったっていうのがパーセンテージにして30パーセント。
泣き顔が見たいっていうのが70パーセントぐらいでした。
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HP→もにか/たまき様

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