3

「キスがしたいんだけどな」
残念だと雪男が呟くと途端に、
「う……ちょっとなら、いいぞ」
絆されてオッケーを出してしまう。
「だけど、あんま顔見んなよ」
最後に付け加えられた言葉に、雪男が吹き出す。
「あ!おま、何笑ってんだよ」
「ごめん。ごめんね、兄さん。でも、そんなの今さらじゃない?」
ご機嫌を損ねないように謝ってから、雪男が言い訳する。
「なんだよ〜」
尚も不満たらたらな燐が雪男を問いただす。

「兄さんの恥ずかしいところなんて、僕いっぱい知ってるよ。今さら一つ増えたって……」
「それとこれとはちげーんだっ」

力説する燐に、妥協は期待できそうにない。
そう判断して雪男は、
「分かった。なるべく顔見ないようにするから、キスさせて」
と燐に迫った。
「お、おう」
燐が瞳を閉じるのを待ち、その唇に己の唇で触れる。
その瞬間、体が震える反応までも愛しく。
二度、三度と触れるだけのキスを繰り返す。
その度に息を詰める燐が、四度目のキスの前に雪男を押し止める。
詰めていた息を吐き出し、
「雪男、お前キスしすぎ」
そんな抗議を燐は吐く。

「キスしすぎってまだ足りないよ」
雪男が不満を口にすれば、
「足りないってお前……」
燐は赤くなってわなわな震える。
「そんなに緊張しないで。キス嫌い?」
「嫌いじゃない、けど」
「なら、もっとしよう?」

押し返す手の力が緩んだのを見逃さず、雪男は燐を抱き寄せる。
今度は開かれた唇の間から、口内に舌を滑り込ませる。

「あ、んぐっ」

押し返そうとする燐の舌を、絡め取って。
燐の口の中を雪男は味わう。
歯の裏、舌の付け根、燐が反応を見せたところはしつこい程に舐めねぶる。

不意にそんな雪男の背が叩かれた。
羞恥と酸欠で顔を赤く染めた燐が、雪男を涙目で睨みつけている。
一旦、雪男が唇を解放してやれば、荒い息で燐は深呼吸を繰り返す。
その様に情欲を煽られ、雪男は美味しそうな色に染まった頬を舐め上げる。

「うひゃあ!」
素っ頓狂な声に雪男は微笑む。
「こんの、えろメガネ!」
そんな風に雪男をなじるウブな反応さえ愛らしく。
「だって、兄さんが好きだから。全部ほしいんだ」
知らず雪男の口からはそんな本音がこぼれ落ちていた。
「な、なに言ってんだ。恥ずかしいやつだな」

「そろそろいいかな?」
唐突な言葉に、燐はきょとんとした。
どこか幼気な様にも、欲を煽られて。
そんな自分をどうしようもないと雪男は思う。
だが、それも兄を愛しく思うからこそ。
恥じるつもりはなかった。
「服、脱がすね」
と第一ボタン、次に第二ボタンに手を伸ばす。
そうすると、居心地悪そうだった燐が自分で脱ぐと言い出した。
脱がされるのが恥ずかしいのも勿論あるだろう。
だがそれだけじゃない。
この行為が一方的でないと伝える意図もあるのだろう。
雪男は、素直に燐にそれを任せた。

緊張から強張る燐の指が、己の服をじりじり剥いでいく。
その様子を黙って見ていた雪男を、燐はじろりと見やった。

「お前も脱げよ」
「あ、ごめん。つい見とれてた」
謝罪と共に考えていたことがこぼれる。
「……恥ずかしい奴だな、お前」
燐は言った。

呆れた様を装いながら、恥じらいも垣間見せる燐が可愛くて。
雪男は衝動的に燐の頬にキスを落とした。
手は己のシャツのボタンを外している。
もう引き返すことはできない。
「だって、兄さんが好きなんだ」
予想以上にアルコールがまわっているのか、意図せぬ言葉が雪男の唇を飛び出していく。
だけど、もう秘めておくべきことなど何一つとないから。
雪男はいつにない素直な気持ちで、改めて兄と向き合るのだった。


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