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「言わなくてごめん。だけど、兄さん納得しないでしょ?だから、言えなかったんだ」

非難を封じる言葉に、燐はただただ唇を尖らせる。
常ならば返ってくる否定の言葉は、口にはされなかった。
いつになく素直なのは、アルコールの作用によるものだろう。
悪魔であろうと、その成分は影響を及ぼすようだ。
体と心の両方に。

「お前、隠しごとばっかだよな」

アルコールで上気した頬を膨らませ、拗ねた物言いで雪男を詰る。

「これが最後だよ」
「本当か?まだ何かあるんじゃねーのか?ほら、吐けよ」

単純な燐が疑うくらいには、隠しごとばかりしてきたなと雪男は苦笑して。

「もうないよ」
とだけ繰り返す。
「ほんとうか〜?」

絡み酒の性質なのか燐が、身を乗り出し雪男の顔を覗き込む。

「もうないって。……それより、兄さんはどうなの?」
「俺?俺がどうって何が?」

小首を傾げる燐の仕草に、心拍数が増したのを雪男は自覚した。
「兄さんこそ、僕に隠しごとしてないの?」
意表を突かれた燐がうろたえる。
「え、あ。ある訳ねーだろっ」
「焦っちゃって、怪しいな」

動揺した燐に突っ込めばあたふたするから、雪男は悪戯心をいたく刺激された。
「本当かな?」
悪戯っぽく問いかければ、燐は焦って言い返す。

「ほ、本当だっ」
「教えてお兄ちゃん」

だから、雪男はそんな言葉を投げかけてみる。
雪男の予想通り、燐はさらに動揺して。

「おま、何。急に。オニイチャン呼びとかして……」
「教えてはくれないの?」

そこにさらに雪男は問いを重ねる。
気持ち上目遣いに見えるように意識して。
兄のことを見上げれば、途端に燐は嫌とは言えなくなり。

「兄さんのこと、全部教えて。全部僕にちょうだい」
ダメ押しの雪男の言葉に、陥落した。
「駄目かな?」
気弱な言葉でお願いすれば。
ついに燐は答えた。
「……ダメ、じゃない」
望みどおりの返答に、雪男はにっこり笑ったのだった。


「ほんとにいいの?」
ベッドに燐の体を横たえ、雪男は念を押す。
自分の行いがだまし討ちのようなものと分かっていたから。
そう問うことが、雪男のなけなしの良心の顕れだった。

「俺だって、雪男のことが好きだから」

だけど、燐は伸ばした腕で雪男の頭をかき抱く。
それが、何よりの返答となった。

「兄さん。……ありがとう」

万感の思いを込め、雪男は燐の背を強く抱く。
骨が軋むほどに。
燐が苦痛に顔を歪めるくらい。
だが、抗議の声はついぞ上がることはなかった。

「ねぇ、顔見せて」
燐の顔が見たいと、雪男が言えば、
「やだ、恥ずかしい」
と燐はそれを拒絶する。
「これからもっと恥ずかしいことしようっていうのに」
雪男のからかいに、
「だけど」
と言い、顔を見られぬよう燐が雪男の頭を抱く手に力を込めた。


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