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「結局いつ言ってくれるの?」
「おま…だからそういうのは急かされて言うもんじゃねーだろ!?」
「だって兄さん全然言ってくれないし。…風呂場で急かしたこと怒ってる?」
「な゛っ…!?…お、怒ってねーよ!!…あとちょっとしたら言ってやるから、な?」
「ほんとかなあ…?」
「ほんとのほんとだから安心しろ!」
両手に沢山の食材を抱えて部屋に戻る。雪男は燐の指示通り鍋にラードを塗ったり準備を手伝いながら燐との他愛のない会話を楽しむ。ついうっかりプランを崩してしまったが言ってしまえば予定は未定。本番はここからだ。自身のベッドに忍ばせてあるプレゼントは料理を食べてから渡すことにしよう。
「こんなもんかな…ん、出来た!食おーぜ!」
「うん!いただきます」
「いただきまーす!」
冷めないうちに、とがっつく燐に苦笑しつつ雪男も箸を進める。やっぱり燐の作った料理が一番美味しいと思う。言ってしまえばいつもの夕食の風景なのだが雪男にとっても燐にとってもこれ以上に幸せなことなんてなかった。料理を食べ終わってからも燐がこっそり朝早くから用意してくれていたケーキを二人で食べて、あぁもうこれ以上食べきれないと幸せな音を上げたところで雪男はゴホンと咳払いをする。
「兄さんこれ、大したものじゃないけどプレゼント」
「おっ!さんきゅー!!…って、うげっお前もマフラー!?」
「お前、も…?」
「これは俺からのプレゼントなんだけど……ほら、マフラー」
「クスッ…ほんとだ、かぶっちゃったね」
「昨日勝呂と志摩と子猫丸に付き合ってもらって選んだんだけどよ…この深緑色が雪男に一番似合うなって」
「僕も兄さんには深い青色が似合うなって思って」
「「目の色と同じ色だから」」
またかぶった!と、声を出して笑えば止まらなくなって。一通り笑い終えれば燐が雪男の隣に来ていた。巻いてやる、と言ってきたので大人しく巻いてもらう。すぐに暖かさが伝わってきて小さく暖かいって言えば、燐は嬉しそうに俺も巻いてと言ってきたので燐のマフラーを手に取る。
「よいしょっと」
「わっ、どうしたの兄さん」
「んー?いいからいいから、巻いてくれよ」
雪男の膝に割って入ってきた燐にマフラーを巻いてやれば、燐は心地良さそうに目を細めた。部屋の中だからと外に出された尻尾もすりすりと雪男にすり寄っている。
「ゆきおー」
「んー?」
「誕生日おめでとう、雪男…ちゅっ」
「あ、ありがとう…」
「ん!これからもずーっとよろしくな!」
満足そうにニカッと笑った燐の顔が眩しくて愛しくて。
「ちゅっ…こちらこそ、生まれてきてくれて本当にありがとう。ずっとずっとよろしくね」
「おう!ハッピーバースデー俺達、だなっ!」
燐をそっと抱きしめると体の内側から暖かくなるような気がして。雪の勢いは増していくばかりだけど、少なくともここは暖かい。何物にも代えがたいそんな思いで満たされた雪男と燐はそっと目を閉じた。
夜はまだまだ始まったばかり。
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とりあえずほのぼのなものを…!
お風呂で何があったかというお話は別に提出させていただこうかなあ…と。
このような素敵企画を作っていただき、また参加させていただきありがとうございました!
奥村幸せになーれ!!
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