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「はぁ…はぁ……なぁ、これいつまで続けるつもりだ?」
「はぁ…はぁ……知らないよ、兄さんが始めたんだろ」
「俺もう疲れた…っくしゅん!」
「ちょっと、大丈夫?このままだといくら兄さんでも風邪ひくかもね」
「あー…うん、そうだな。雪も堪能したしそろそろ中に…って、おい待て雪男。それはどういう意味…」
「なにやってるの兄さん。早くおいで」
「聞いてねぇし!」

すたすたと先に寮へ入っていてしまおうとする雪男の後を燐は急いで追いかける。ふと見上げた空からはやはり雪がしんしんと降り注がれていた。
玄関先で雪をあらかた落とした二人は揃って自室へと足を進める。

「…なぁ、雪男」
「ん?なに、兄さん」
「その……えぇっと、あの…」
「…まさかまた赤点でもとったの?」
「なんっでお前はそういう可愛げのないことを言うかな…!?」
「違うの?」
「違ぇよ!!」

だとしたら兄さんが言いよどむ理由で他に思い当たる節がない、と真面目な顔で言えばますます機嫌を悪くする燐。キッと睨まれてもぎゃんぎゃん騒いでも、それらは本気で怒っているわけではないと分かっているからこその会話に心地よさを覚えながら、雪男は燐の手をぎゅっと握った。世間一般で言う恋人繋ぎというやつだ。

「わかってるよ」
「なら言うなっつーの!まだ赤点とったって決まったわけじゃねぇんだからな!」
「そこは自信を持ってとってないって言えよ」

手を握られたことに驚くことなく燐も自然と握り返してくる。手を繋ぐことすら恥ずかしくて居たたまれなかったあの頃が懐かしい…。意識し始める前(といっても幼少時代の話なのだが)は普通に手を繋いだり触ったりしていた二人も、互いの気持ちが通じ合ってからはなかなかそういった触れ合いが出来ずにいた。
兄さんがこうして自然に手を繋いでくれるようになるまで長かったなあ…。嬉しさ半分幸せ半分の笑顔を口元に浮かべた雪男は立ち止まって隣を歩いていた燐と向き合う。突然足を止めた雪男を不思議に思いながら燐は雪男をまっすぐに見つめた。

「兄さん、誕生日おめでとう」
「あっ!!バカ、お前っ…!何で先に言っちまうんだよ!!」
「へぇ…おめでとうって言ったのにバカって返されるとは思わなかったな…?」
「ううう嘘!!嘘ですすっげー嬉しいです!!」
「ふぅーん…?」
「で、でも、先に言われて腹が立ったのはホントだからな!俺の方が先に言おうと思ってたのに!」

燐は悔しそうにぎゅっと唇を噛んだ。

「だって兄さんなかなか言ってくれないから」
「今言おうとしてたとこだっつの!」
「さっき外に連れ出したのも兄さんなりの演出とかそういうのじゃないの?」
「っ!?え、おまっ、そこまで気付いてたのか!?」
「…今のは適当に言っただけだったんだけど。本当に?」
「……知らねぇよっ!!」
「あっずるい!兄さんからも言ってよ!」
「……………」

恥ずかしさが限界にまで達した燐は俯いてしまい、もう雪男の顔を見ようとしてくれない。今は隠れて見えない尻尾も、外に出ていたら燐と同じようにだらんと力なく垂れていたことだろう。
困ったなあ、と雪男は頭を悩ませた。

ぐいっ

繋がれたままの手が引かれたかと思いきや、続いて手の甲に訪れるふにっとしたマシュマロのような触感。あぁ、今、兄さんは僕の手の甲にキスしたんだと気付いた頃には離れてて。余韻もへったくれも感じさせないぐらいあっさりと手を離した燐を腕の中に閉じ込めた。

「兄さんってばいつの間にそんな積極的になったの」
「なんだよ…不満か?」
「んーん。すっごく嬉しい…けどはぐらかされた感があるのがなぁ」
「うっ…それは…」
「言ってくれるんじゃなかったの?」
「言う!けど…後でに変更する」
「何それ、意味がわからないんだけど」

雪男がくすくす笑う度に零れる微かな息が燐の首筋に当たってぞくりと震えた。身体に巻きつけてある尻尾もびくびくと動いてそれがもの凄くこそばゆい。

「でも絶対に言ってよ?僕だって色々と計画してたのを崩してまで言ったんだから」
「計画って…ちゃんと言うから早く部屋に戻って風呂入ろうぜ。まじ寒ぃ!」
「そうだね、兄さんがミラクルを起こして風邪ひいちゃうかもしれないし」
「だからそれどういう意味だ!!?」

部屋に戻った二人はまずコートを脱いで風呂場へ直行した。風呂から上がってすぐに最近寮の別室で見つけた折り畳み式の古いテーブルを部屋の中央で組み立て、そこに燐が厨房から持ってきたカセットコンロを設置する。座椅子なんてものはないので雪男が用意しておいた座布団を二人分床に敷いたら準備完了。今夜の夕食はスキヤキらしい。それから、わずかな量だがお刺身も。下ごしらえは全部してあると言うので、二人で厨房へ食材を取りに降りた。


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