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「ンだそりゃっ!!」

怒号とともに、燐は跳ね起きた。
本当に跳ね起きたので、寮のベッドから転げ落ちて頭を強打する。

「〜〜〜っ」

頭を押さえてうずくまること数十秒。
おかげで状況の把握ができた。
今自分がいる場所は、生活拠点としている寮の部屋だ。
外はまだ暗く、窓から射す星明かりだけが光源。
つまり

「さっきのアレは夢か」

懐かく胸を軋ませるような獅朗の影と、その場にいた雪男。
そして雪男の最後のセリフまで克明に覚えているが、夢だとわかってしまえばどうということはない。
まだ胸は痛むけれど、もう一度寝てしまえばいい。そうすれば夢でまた獅朗に会えるかもしれない。
空の具合からしても、朝が来るには早いのだから。

「……」

だが燐はおもむろに足音を忍ばせて、同室で寝ている双子の弟のベッドに近づいた。
雪男は壁側を向いて寝ていたので、燐には好都合にも背中を向けている。
馬鹿なことだとは分かっている。
でも、どうしても確かめないと気が済まない。
そぅっと、寝ている雪男の腰のあたりの布団をめくる。
雪男が寝るときに着ているスウェットが見えた。
スウェットパンツとトレーナーの境目からちらりと肌が覗いている。
寒そうだなー、と頭のどこか違うとこで思いながら、おもむろに手をスウェットパンツの中に差しこんだ。
腰を右に左に撫でまわした後、さらに下着の中へそろりと指をのばす。
そう、しっぽがあるなら腰と臀部の中間辺り。しっかり触って確認しなければ。
さらに臀部へ手を伸ばしかけたとき、地を這うような声が燐に冷風を浴びせた。

「……ちょっと」

手が、ぎくりと止まる。
通常とは違う迫力のある声は、機嫌の悪さをダイレクトに伝えてくる。
ぱっと手を引き抜くがもう遅い。
すばやく起き上った雪男に、現行犯よろしく手を掴まれてしまった。

「理由を聞かせてもらおうか?」

夜の闇の中でも底光りする目で、雪男は燐を引き寄せた。
こわい。非常にこわい。

「理由、は、その、あるにはあるんだ、ぞ?」

不機嫌な雪男はちょっとやそっとの言い訳では許してくれない。
しかも、一笑にされてしまうような理由なだけに言っても雪男の怒りに油を注ぐだけのような気もする。
雪男のベッドの上で、雪男に手を掴まれたまま向かい合わせに座らされているという情けない格好なだけに、さらに言い淀むと弟の目が細くなり、やがて天使もかくやというほどの優しい笑みが浮かべられた。

「教えてお兄ちゃん」

極上雪男スマイルは、かなり怒っていることの証拠だと兄は知っている。
手首を掴む雪男の手の握力も、その笑顔に比例して上がっているのが何よりの証拠だ。
さぁっと青ざめた燐は手放しで降参した。

「っ、い、言います!言うからそんなに怒んな!」

兄の悲鳴に雪男は手を離してくれたがまだ目が怖い。
ベッドの上で、正座をして向き合う兄弟は完全に説教される側とする側のそれ。
さらに怒られるのを覚悟して、燐はしぶしぶ口を開いた。

「夢に、お前とジジイが出てきたんだ。そんで…まぁジジイにはヴァチカンの奴らを驚かせろみたいなこと、言われた」
「へぇ、よかったじゃない」
「うん、で、なんか、お前は医者にならないみたいなこと言って…」
「うん?」
「で」
「…で?」

ぐぅっと燐は頭を俯けた。膝に置いた手が自然とジャージを握りこむ。

「お前。悪魔になりたいって言った」

二人の間に短い沈黙が流れた後

「…それで?」

と、平常そのものの声で雪男が小首を傾げてきた。
とっさに、燐の頭に血が昇る。
ベッドの低い天井と逆光で雪男の表情は見えなかったが、そんなことは関係なかった。
弟の両肩をすがる勢いで掴む。


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