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「……燐?顔が赤いよ?」
「な、何でもねぇよ……っ」
「そう?ならいいけど……。風邪引いたなら、言ってね?二―ちゃんに頼んで、風邪に効く薬草出すから」
「お、おう。サンキュ」

ははは、と乾いた笑い声で、俺は何とか誤魔化そうとする。
この一年。
いや、この数カ月。
俺の身辺は目まぐるしく変わった。父さんが死に、雪男が祓魔師だった事を知って、俺も祓魔師になるために、雪男と同じ高校に通う事になって――俺は知った。
雪男の本当の気持ちを。
てっきり、俺の片恋だとばかり思っていたけれど、つい先日、実は両想いだった事が発覚。
今更だけど、そういえばやけに雪男の視線を感じるなとは思っていたけれど――。
……ホント、今更だ。

「じゃあ、クリスマスパーティーはする方向でええね?ふふふふ……、杜山さんや出雲ちゃんとクリスマスを過ごすんや!」

不気味な笑い声を発しながら、さりげなく本音を暴露する志摩。
相変わらず、面白い奴だ。

「……お前、それが本当の目的なんやろ?塾の皆でっていうのは口実か」
「な……っ!いややわぁ、坊。勘違いせんとって!皆とも交流を深めたいなと思ってるんよ?」
「何か志摩さんが言うと、嘘くさいですね」
「な……!子猫さんまでっ」
「でもパーティー、楽しそう」

そう言って、瞳をキラキラと輝かすのはしえみだ。
志摩はいつものようにハートを飛ばしながら、嬉しそうな声を上げる。

「やろー?皆でケーキ食べて、プレゼント交換して」
「わっ、それいい!私、お友達とクリスマスパーティーするの、初めてかも!」
「なら、ケーキなら俺に任せてくれよ。すっげえの、作るからさ」
「に、兄さん……?」
「じゅあクリスマスパーティーに参加する人、手ぇ挙げて?」

志摩のその一言に、雪男以外の面々が手を挙げた。ほとんどまともに塾の皆と会話しない、宝も手を挙げている。意外とコイツ、付き合いいいよな――って。

「雪男、お前参加しないのか?」
右手を挙げながら、俺は雪男に視線を向ける。
俺が首を傾げていると、雪男は物言いたそうな顔をして、俺を見つめていた。

「何や、奥村センセ、予定でもあるんですか?」
「いえ、その……」

志摩の尤もな問いかけにも、雪男は曖昧に答える。
クリスマスに予定――つまりは。

「お、お前……!まさか……!」

有り得ない話じゃない。
何故かやたらとモテる弟は、常に女子に囲まれている。ちょっと可愛くて、ちょっと巨乳で、ちょっと色気たっぷりの魔性の女に言い寄られれば――雪男も男だ。飛びつくかもしれない。

「俺に内緒で彼女とか作ったんじゃないだろうな!?」
「……は?そんな訳ないだろ!?」
「むかっ!……モテるからって、いい気になるんじゃねえぞ、メガネ!」
「だから、何でそうなるんだよ!?」
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて。奥村センセ、俺らに気を使わんでええよ?せっかくのクリスマスなんやから、彼女さんと一緒に過ごすべきや」
「だから、僕に彼女はいませんっ!」

教卓を両手で叩いて、雪男は前に身を乗り出した。
その鬼気迫る表情に怯えた志摩は、「怖っ」と呟いて、勝呂の後ろに身を隠す。勝呂はそんな志摩に同情的な視線を送りながらも、冷静なツッコミを入れる。

「もう、あの兄弟の痴話喧嘩なんか放っておき。いつもの事やねんから。……つーか、別に兄貴に彼女が出来たとか報告せんでもええやろ」
「なっ!勝呂、それは違うぞ!?兄ちゃんは弟の事を何でも知りたんだぞ!?」
「それもどうかと思うわ」
「普通、兄弟ってのはそうだろ!?なあ、志摩?」
「……俺に話を振らんといてぇ」

志摩は相変わらず勝呂の後ろにしがみついたまま、目を合わそうともしない。
同意を求めようにも、この教室で兄弟がいるのは志摩だけだ。宝はよく知らねえけど。

「――だから!」

志摩の方を向いていたら、不意に頭を掴まれ、強い力で方向転換させられた。


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