時は過ぎ、午後10時。
二人で一つの寝台に身を寄せれば、真冬でも寒く無い。
幼さの残る体を柔らかく抱きしめれば、胸元に擦り寄ってくる兄がかわいらしくて仕方が無かった。
旋毛にキスを落とせば、ぐりぐりと擦り付けられる頭。尖った耳も、もはや見慣れている。


「ゆき、寒く無い?あったかい?」
「うん・・・兄さんがあたたかいから。兄さんは寒い?」
「んーん。雪男がぎゅってしてくれてるからあったかいぞ」
「そっか。よかった」
「ん」


いまだに取り壊されない旧男子寮に住んでいるのだから、当たり前のように暖房器具など無く。
それでも、こうして身を寄せれば寒くなんてないし、むしろ温かい。
第一、兄は子供体温だから僕にとっては最高の温かさだし。


「んー・・・うー・・・」
「眠い?眠いなら寝た方が・・・」
「う・・・起きてる・・・」
「無理しなくていいのに・・・」
「いや、起きてる・・・」


うとうとしてきた兄さんは、目がとろりとして舌足らず。
この所余り睡眠時間を取れなかったのだから、眠くなって当たり前なのだ。
人肌に安心しているのなら、寝た方がいい。それなのに嫌だと唸る姿に、苦笑が漏れた。


「ほら、寝た方がいいよ。ね?」
「ん・・・ね、ゆき・・・痛い・・・」
「え?!ごめんね、力強かった?」
「違う・・・なんか、ここ、いたい・・・」


兄がここ、と指差すのは心臓の辺りで、いたい、いたいと何度もか細い声で言う姿に不安になった。
兄は悪魔だ。力を封じる為、悪魔としての心臓を封印している。まさか、何か関係があるのだろうか。
それとも、人間として何か病でも起きてるのか?不安ばかりが体を満たす。


「兄さん、燐、ちょっと見せて貰うね?」
「ん・・・っい、で・・・!」
「寒いけど、我慢して・・・」


体を離し、兄の体を上向きにする。
シャツのボタンを素早く外し、左右に開く。布擦れが痛いのか、ビクリと震える体は寒さに鳥肌を立てた。
いまだに机にあるライトを点けていた事もあり、成長途中で止まってしまった体がよく見えた。


「・・・なにも、なってないよ?」
「へ?でも、じんじんするし・・・痛いんだけど・・・」
「本当に何もないんだけどな・・・」


つるりとした肌に傷は無い。不安そうに眉を潜めるその顔は、申し訳無い事に、そそる物がある。

よこしまな気分を紛らわすように皺の寄った眉間にキスを落とせば、あ、という声に驚かされた。


「どうかした?」
「今、痛みが引いた!」
「え?!ちょ、どういう事?」
「わかんねぇ・・・けど、雪男がキスしてくれると痛み和らぐみてぇ」
「・・・どういう理屈なのか解らないけど・・・とりあえず、まだ痛い?」
「少しだけ」
「んー・・・じゃあ、」
「んっ・・・ん、ぅ・・・」


痛みが和らぐなら、と顔中にキスを降らす。額、瞼、涙がにじむ目尻に、頬。
唇に啄むようなキスを繰り返しおとし、ゆっくりとキスを深める。
薄く開いた唇を舐め、口内を蹂躙するように舌をからめる。
肩に縋り付くように手をのばされ、ゆっくりと唇を離す。銀糸がぷつり、と切れれば、寝台に沈み込む体を抱きしめた。


「・・・燐、まだ、痛む?」
「はっ・・・も、へーき・・・」
「よかった。で、その痛み、いつから?」
「んーと・・・えーっと・・・」
「?」


妙に言い渋る様子。妙に不可解だ。こうなると、中々話しださないのは25年近い歳月で身を持って体感している事だ。
無理矢理にでも聞いておかなければならない事なのだし、確実に意識ははっきりしている。


「燐、お願いだから話してよ」
「――――で、も」
「いくら僕でも話せない?これでも燐の夫だよ?」
「!・・・た、しかに、そだけど・・・う゛ー・・・」
「燐?」


唸る燐。後一押しかな、と核心して、唇にキスを落とした。


「ね、話してよ・・・」
「――――っから、」
「え?」


上手く聞き取れなかったから、もう一度、と促す。すると、ばっと起き上がった燐は顔が真っ赤で。

「付き合い始めた年の・・・誕生日前から・・・で・・・その、最初は、お前が居ないと、痛くて・・・今は、居ても、なんか、寂しかったりすると、なる・・・!」


なんて、可愛い事間違いない発言をした。
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