花金
生きるのって、超絶しんどい。
今日も朝4時に起きて、満員電車に頭を揺さぶられ、脳みそも髪の毛もぐちゃぐちゃになりながら会社に行き、眠気に耐えながらがりがり仕事して、そしたらミスがあって先輩にめちゃくちゃ怒られて、みんなが帰っていく中残業して、この時間。
1週間全く同じパターンの日が続いて私はもうへろへろだった。完全にブラック企業に捕まっていた。精神はゴリゴリに削られていたし、追い詰められすぎてもはや涙も出ない。
ふらふら歩きながら家について、糸が切れたように玄関でばたりと倒れ込んだ。
一人暮らしの家。出迎えてくれる人なんていない。床がつめたくて気持ちいいけど、早くシャワーを浴びたくて這いつくばって進もうとする。
だけど、途中でなんだか、シャワー浴びることすらめんどくさくなってきた。あああもう本当につらい、つらい、勘弁して。
がらがらと精神が崩壊していく。ああああ、と唸りながらふと天井を見上げれば、羽根の生えた小さな小人が。そう、天使みたいなものが見えた。あまりの疲労に幻覚すら見えてきたようだ。
天使の手招き。おいでおいで生きていくのは辛かろう、って、わたしを身体から引き剥がそうとしてくれている。神は私を見捨てたわけではないのだ。
ああ、天国が見える。てんしさま。
天井に手を伸ばしたところで、力尽きてばたりと倒れた。その時、がちゃ、と何故かリビングのドアがあいて、私は現実に引き戻された。
「あれ?なまえなにやってんの?」
びき、とこめかみに青筋が浮かぶ。
くそ、おそ松、来てやがったのか。このタイミングでこいつに会うのはほんとに、本当にやばい。
いくら好きでも、正しい付き合い方をしなければ精神的にくるものがある。
「なまえ?死んでんの?大丈夫??」
「………」
「ぷっ死んでる。いやーでもそんなになるまで働くなんて大変だね、なまえも働かなきゃいいのに」
へらへら笑いながら私のことをつんつんと、いや、グサグサと人差し指でつつくおそ松に、私の頭の奥の方で、ぷちんと何かが切れる音がした。
「るぁぁぁぁあぁあ!!!!」
「うわぁ!?!?」
私は雄叫びを上げ、思い切り手を振り回しておそ松を突き飛ばし立ち上がった。
ふーっふーっと息が上がる。手足の先の血がすべて頭に集められているようで、びりびり痺れて、反対に頭は沸騰したみたいに熱かった。眩暈がする。
おそ松は尻餅をついたままそんな私のことをぽかんと見上げていた。
「え?え?なに?どったの」
「ふーっ、ふーっ…ふっ……」
バタン。そんな音を立てて再び倒れた私に、おそ松が「えっ嘘大丈夫?なになに」と慌てているのかわからない声を上げていた。
ああ、電気は虹色。部屋の明かりを見上げれば、その周りを取り囲むなないろの光が私を包む。外側は、おそ松の色だなぁ。
ぼんやり天井を見つめたまま動かないでいると、そんな私をじっと見ていたおそ松がぼりぼりと頭をかきながら言った。
「あー、あのさ」
「……うん」
「ラーメンでも食う?」
「……食う」
「じゃーお湯沸かしてくるわ」
私を置いて、鼻歌を歌いながらリビングのほうに行ってしまったおそ松を見送りながら、私は再び夢心地になった。
明日は土曜日か。とりあえず、今日までのことは忘れて、ラーメン食べて、お酒でも飲もう。
そうすればまた月曜日からも、がんばれるはずだ。
吝嗇な花の金曜日
160410
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