さよならの理由



いっつも不安で、腹の底を探りあってる、そんな感じだ。そんな付き合いだ。一松と、私の関係は。


恋人として付き合いはじめたのは学生のときだった。記念日は覚えていない。記念日をかぞえるなんてかっこ悪いと思ってたし、一松はそういうの、好きじゃないと思ってた。
だけどあとから一松に「今日で一年なんだけど」って言われて、?ってなったら、一松は顔を真っ赤にして、それから怒ったっけ。
ナニソレ、女はそういうの好きだっていうから覚えててやったのに、ていうか僕のことどうでもいいからそうなるんですよね?他に誰か好きな人が、みたいなことをずっとくどくど言ってた。誤解を解くのが大変だった。
一松は、今でも記念日を覚えているだろうか。多分、次で4回目くらいだと思うんだけど。私は結局覚えていなかった。


付き合ったきっかけは、思い出せないけど、付き合った理由は私達が似た者同士だからだろう。
いつからか私は人を信用出来なくなっていて、そんなとき一松もそうだった。学校に行きたくない日に、いつもこっそりうちで体育座りしてうずくまって、ふたりでぽつぽつ話してた。
その内にきっと、理解して欲しくないことも理解して欲しいことも何となく、お互いにわかったのだ。
それから、いつからか手をつなぐようになって。…あれ、記念日なんてないんじゃないの?一松はいつをもって私と付き合ってると思ったんだろう。


とにかくそんなこんなで4年ほどの付き合いだけど、だけどお互い人に興味が持てないことは大きな欠点で問題だったな。
まずそんなだから高校を卒業してからは滅多に会わなかったし、そのくせ、いや、そのせいか私が少しでも他の誰かと話してるのを見かけたり、他の誰かの話をされると一松は疑って、私は一松がトト子ちゃんと会ったりしているのを見たり聞いたり知ったりすれば一松を疑った。
こんなの付き合ってる上で浮気の次にしちゃいけないことだと思うけど、私たちの性格上やめられずそうやって疑って嫉妬して、私たちはそれはもう鬱だった。


その上、時を重ねていくうちにわたしはとうとう一松の痛みを理解出来なくなってしまった。
そもそも一松は可愛いしかっこいいし、頭もいいし、そんな一松が自分のことをゴミだなんて言うのに耐えられなくなってしまったのだ。
あんたが言いだしたら、私はどうなっちゃうの。私みたいなブス、ゴミより価値ないってこと?ねえ、あんたはゴミなんて言わないでよ。あんたは尊いよ、十分すてきな人間だよ。
そう言ったら、一松はいつも絶望したみたいな顔で、拳をぶるぶる震わせながら俯いて言ってた。

「なまえはゴミなんかじゃ、ない」

ああもう馬鹿馬鹿しい。そうやって傷を舐め合うだけの、くだらない関係だ。
抱きしめないで。そんなの虚しいだけ。





「なまえは、変わった」



私の話を聞いた一松はまた、絶望を押し殺すようにして言った。最近一松がよく言う台詞だ。
私は変わったんだって。そうかも、その通りかもしれない。だけれど。



「変わったとしてもね、私はいつだって私なんだよ。一松が今の私を気に食わないと思ってたとしても本当は前の私と別になにも違わない、ただ私であるだけ」



変わったとしたら、それはあなたの方なんだよ。あなたが私を好きでいられなくなっただけのことだ。

それを聞いた一松は、にくい敵を見るような目で私を見た。気持ちは、わかる。とおもう。
 ふたりは合わないよって、いつかおそ松くんに言われたことがある。そうだと思う。結局私たちは、恋人なんかではなくただの仲間だった。
傷を舐め合うためにお互い存在している。同じ痛み、同じ闇、同じ病を抱えた同士。同志(いや、何も志してないんだから、それは違うか。)。
あるいは私たちは、お互いにコンテンツのようなものでしかないのだ。一人の人間というよりも、お互いを手軽に提供される、慰めるためだけの二次元的ななにかだと思っていたんだと思う。

私たちを救うのは、お互いじゃない。ただ巣食ってるだけだ。だからこうして終わりが来たし、これは私には納得のいく最後なんだけど、一松は納得してくれないかな。なにせ私たちは違う人間でぜんぶ理解するなんて到底無理なんだ。
だけどちょっと似てたのはほんと。わたし達って似てた。似てちゃダメなんだよ。私たちの様な人間に本当に必要なのはたぶん、日の当たるところにいる人間なんだ。正反対の人間なんだ。
似ていると、いつまでもお互いに足を引っ張って闇に引きずり込んで、そこで鬱というひとつのジャンルを貪って、安心して、不安になって、ずっと不幸だから。

それが、さよならの理由。




160203
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