素晴らしき人生
(16話ネタ)
猫カフェでバイトを始めた。始めたのはいいけど、もう今やめさせられそうだった。
やっぱり僕は社会に適合できないのかもしれない。この仕事は前からやりたいと思っていたしこれならできそうだと思ったから始めたのに、
研修を初めて数分もしない内に店長が「そっちだったの!?」とかなんとか叫んで、何故か正座させられたのだ。ぼーっと店長の話を聞きながら思う。
いや、店員なんて僕にはきっとできないし。だって結局カフェだし接客だし。そんな態度の僕に「もう帰ってくれ」と言ってくる店長を脅迫していると、ドアが開いた。
「こんにちはー」
常連だろうか、はたまた店員だろうか。慣れた様子で猫たちを撫でながら入ってきたその女は僕を見て、それから僕の頭に付いている耳を見てはて、と首をかしげた。
「え、何ですかこの人」
「それが、バイトとしてとったんだけど……なんか猫の方やりたかったみたいで」
困った様子で店長が話し出す。いや、話をちゃんときかないそっちがわるいでしょ。僕は悪くないんだけど。
そうぶつぶつ言う僕を店長はちらちらと気にしていたが、女は見向きもせずにふむふむと頷いていた。
そして一通り事情を聞くと「へー変わった人だなぁ」なんて言っている。呑気だ。それから急に僕の方を振り返ったと思ったら、あっという間にこっちまで来て目の前でしゃがみこんだ。
突然ひょいと顔をのぞき込まれたので思わず息をとめてしまった。ひゅ、なんて情けない音がなって羞恥と共に腹が立ったが、女は気にした様子もなく店長にこれまた呑気に尋ねている。
「この子撫でていいんですか?」
「え!?いやーちょっとやめといた方が」
「大きな猫くん。撫でていい?」
「…………好きにすれば」
「おもしろいなぁあはは」
何がおかしいのか、女は馬鹿みたいにへらへら笑って僕の頭をなで始めた。はじめは引っ掻いてやろうかとも思ったんだけど。
しかしこの手つきがやけに気持ちよくて。思わずとろんとしてしまった。なんだコイツ、なんだこれ。猫ってこんな気持ちいいのか。これからももっと撫でてやろう。
しばらくして女の手が離れた。名残惜しくて見上げると、彼女は僕ににっと笑いかけた。なんか、爽やかで体育会系みたいな。そういうの苦手なタイプだったけど、あれ。これは別に悪くない。
「おもしろいけど、でも、せっかくだから人として生きなよ」
「………────」
「ていうか、…………いや、何でもないや」
「え?」
「かわいーけどね、ねこ」
にししと笑って、彼女はほかの猫の方にあっさりと行ってしまう。その後ろ姿をぼんやり見つめていると、隙ありとばかりに首根っこをつかまれ店長に外に放り出されてしまった。
頭がぼーっとする。彼女は結局店員なのだろうか、それとも客なのだろうか。また会えるだろうか。どうしよう。彼女の名前が知りたい。
明日を生きる方法
160202
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