小宇宙 | ナノ
あっけない再会

それからしばらくは大変だった。
トリックがわかったところで、松野一松という人間は不思議なくらい夜代から逃がれるのがうまかったのだ。
その上兄弟のコンビネーションとでもいえばいいのか、悪ふざけを楽しむおそ松達がわざと一松の真似をしてみたりして長々と絡み、夜代はもはや一松探しをすることすら困難になっていた。

一度、一松が帰る前にいっそ六つ子全員を捕まえようと、放課後真っ先に1年生の教室がある階に行ってみたことがある。
そして楽しそうにぺちゃくちゃ話しながら歩いている彼らを夜代はしっかり発見した。
が、そこに一松の姿はない。彼は誰よりも先に夜代の姿を見つけ、一歩前に行方をくらましてしまったらしかった。
おそ松は運がないね〜縁もないね〜といってケラケラ笑っていた。縁がないというか片っ端から切られているんだけど、と夜代はひそかに思った。
それから5人に「じっくり見てみると意外とみんな特徴あるんだね」と言うと何故か照れられて、夜代も照れた。

そんな感じで間違えて間違えて、その度に笑われたり必死だなーとからかわれたり。
本当に大変だったがそうして関わっていくうちに、一松の振りをする六つ子を見ているうちに、夜代は一松という人間の特徴をある程度知ることができていた。

そんなこんなで、彼を探し出す準備もとっくに整い、夜代は散々再会のタイミングを身構えていた。しかしそれは思ったよりずっと簡単であっけなく、待ち望んでいたにしてはそれほど大袈裟なものにはならなかったのだった。



ある日の昼休み。夜代はまた角から飛び出してきた人物にぶつかりそうになった。
舌打ちをされ、反射的に謝る。それから顔をあげて、夜代はぱちりと瞬きした。



「…あ」

「…あれ、こんにちは」



一瞬間を置いてからすぐに愛想のいい笑顔で挨拶すると、何事もなかったかのように去ろうとした“彼”。
夜代は、特徴なんて知る必要なかったな、なんて彼を見て思った。




「一松くん」

「!」

「…やっぱり、また会えたね」



へら、と夜代は笑って一松の腕を掴んだ。一松はそれを乱暴に振り払ったが、夜代は気にした様子もなく笑う。



「さぁ、もう諦めて天文部に入りましょう」

「……ヘンな奴」



一松は久しぶりに見た夜代を改めて横目で見て、その執念に対する驚きと呆れと苛立ちを吐き出すように夜代に言った。
えっ?なんて言って驚く夜代の目は、彼女が望遠鏡をもっていなくても、初めて見た時と変わらない。
一松には、瞬くそれが無性に鬱陶しかった。

夏休みに入る、すこし前のこと。

151129
prev next
BACK
TOP
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -