ようやくの発覚
六月も終わる日。夜代の気はそろそろ滅入っていた。
そうしてとうとう夜代は、今までなんとなく秘密にしていた彼のことを前の席に座るクラスメイトに世間話として話したのだった。
「──そんな感じでオカルトに巻き込まれてるんだ」
夜代がぐったりしながら言うと、
クラスメイトはしばらく考えてから、実に簡単そうにこの謎のトリックを言う。
「一年に六つ子がいるんだよ、ほんとそっくりの」
…………
「…………ああ!じ、じゃああの子がその六つ子だったんだ!!」
かくして夜代は、2ヶ月間の苦労の甲斐も特になく真実にたどり着いたのだった。
───────
「松野くん!」
「あ、天文部の。この前はどうも」
前方に見えた見知った後ろ姿を走って追いかけ声をかけると、振り返った彼は人当たりの良さそうな雰囲気で会釈した。
夜代はそんな彼にずかずかと近づいて、目を細めまじまじと見つめる。
「…あ、あの?」
「…きみ、というか君たち…別人みたいに態度が変わるんじゃなくて、そもそも別人だったのね」
「あ、やっと気づいた!」
「…人違いって言われたときはインチキだーっ!って思ったけど、こんなそっくりさんが六人もいたんだ!」
「あはは、やっぱ似てるでしょ」
おかしそうに笑う彼は、否、おそらく彼らは気づかない夜代を見て楽しんでいたのだろう。
夜代はそれに気づいて、笑った。自分もゲームをしている気分でこの2ヶ月間随分楽しかったことを思い出したのだ。
「似てる似てる。そっくり!でも、そう言われてみれば私が誘ったのは君じゃないね、もっと陰気くさかったし可愛げなかったよ」
「それ兄さんに言っておくね」
「え!やめて!入ってくれなくなるかもじゃん!」
慌てると、ジョーダン、と軽く笑われる。
それからふと、考え込むように顎に手を当ててから、彼はきょとんとした顔で夜代に尋ねた。
「というか、その、ちょっと急に変なこと聞くけど…僕じゃダメなの?」
「え?」
「僕が代わりに天文部に入るんじゃダメかなって」
「あー、そっか!勿論歓迎するよ入ってくれるなら、部員が足りな…あ」
途中まで言ってから、夜代は言葉を止めた。聞き流すところだったが──イチマツ兄さん、とは自分が探していた“彼”のことなのだろう。
ほかの兄弟や目の前の彼は面白がってくれていたようだが肝心の“彼”はひょっとすると、いやひょっとしなくてもこの2ヶ月間の勧誘を迷惑がっているのかもしれない。
今の申し出は、それを知っている弟が“イチマツ兄さん”を逃がそうとして言っているのではないか。
「……あー、…ごめん、」
「?」
「…私イチマツくんのこともう少し探すから、“入ってやるからイチマツくんを諦めろ”ってことだったら困る…かも」
「えー、なんで?あんまり言いたくないけど、顔なんてもうそっくりでしょ?」
「え…いや顔で決めたんじゃないしな…」
「そんなに一松兄さんがいいの?」
「……うん!イチマツ兄さんがいい!」
「えぇ………そっかぁ、わかった」
夜代がそれ以上多くを言わないのを彼は気にした様子だったが、やがて笑った。
夜代もそれににっこりと笑って返す。
「うん!ありがとうね、あ、えっと、名前は?」
「トド松です、末っ子のトド松」
「トド松くんもイチマツくんの件とは別で天文部はいろう!」
「あはは、考えておきますね」
ちゃっかり勧誘する夜代にトド松は笑って、手を振って去っていった。
夏休みまで時間もない。でも手掛かりは十分だ。夜代はぺちんと自分の頬を叩くと、とりあえずまた資料室に向かうのだった。
「作戦会議!!」
151128
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