小宇宙 | ナノ
ドッペルゲンガー

「……ふっなんだ?えっと、そう、お嬢さん……どうやらこの俺の魅力に、捕らわれてしまったみた、」

「また違う…」

「えっ?」

「…もう!次会ったらって約束してくれたのに会う気ないじゃん!」



ばかー!!と叫んで、なんだか言葉がぎこちないナルシストの髪をわしわしぐっちゃぐちゃにして夜代は走り去った。
まるで嵐が通った後のような髪型でとり残された、“探している彼”とは違う“彼”は、
ただぽかーんとしてその後ろ姿を見送ることしかできなかった。

あれから1ヶ月。
夜代はまだあきらめていない。



───────



がしっ!

「…ん?なに?」

「天文部!入って!」



夜代はまた“彼”に声をかけた。本日二度目の挑戦である。
資料室に行くための時間を確保するために今まで探し回る時間を決めていた夜代だったが、 1日に何度も人格が変わるのか、それとも日付ごとに違うのか、例えば周期はあるのか等を確かめたくなったのだ。

きょろっと開いた目にぱかっと笑った口元。
醸し出す明るさと、どこか底の無い雰囲気から、明らかに初めて会う彼だと夜代は考えた。
それにしても彼の人格は一体いくつあるのだろう、と夜代はふと思う。
そんな夜代に彼は首をかしげた後、わくわくした様子で身を乗り出してきた。距離の近さに驚いて、夜代は半歩下がる。



「天文部ってなにするの!」

「え?んー、具体的に言えるのは、天体観測とか?でも主な活動は部室で研究かな」

「ふーん、たのしい?」

「私はすきだよ」

「へぇー」

「君は好きなものとかある?…あ!というか、そろそろ名前聞いてもいいかな」

「えっとね、十四松!!好きなものは野球!!」

「おおー、十四松!わぁ、初めて名前きいてちょっと感動してる。十四松くんね。他の人格も名前は一緒なのかな…」

「他の人格?なんか良くわかんないけど僕は十四松だよ!君は!?」

「あ、遅れてごめん!槻谷夜代!よろしくね!野球がすきなら、天文部は興味無いよね」



夜代の中に諦めの文字がそこで初めて浮かんだ。
好きなものが野球だときいてそれでも無理に天文部を押すほどではない。
そうようやく冷静に判断ができたのだ。逆にどうして今まで追いかけていたのかと
不思議にすら思えてきた。その時だ。



「…あ!十四松兄さん!それたぶん一松兄さんが言ってた天文部の!」

「………え」



なんと、目の前の十四松と同じ顔の人間がこちらに駆け寄ってくるではないか。
夜代は目を白黒させた。だって、だってだ。どう考えてもおかしい。
目の前で2人に横に並ばれ、夜代は更にくらくらする。



「ふ…ふたり…双子?」

「ううん!僕たちむつ、もが「だめだよ十四松兄さん、言われたでしょ内緒って」



何かを言おうとした十四松の口を押さえながら、もう一人はそんな事を言う。
言われたとは最初の“彼”にだろうか?え?じゃあ、ホントは一体何人いるの?
そうして固まったまま混乱する夜代に、彼は続けた。



「ごめんなさい、僕たち、前のとは別人なんです」

「?、?」

「と、とにかく、そういうことだから…あ、チャイム鳴った!ほんとにごめんなさい!じゃあ行くね!」



バタバタと二人で駆けていってしまった双子?の彼らを見送りながら、夜代は考えた。
じっと見たら、少しだけ顔つきとか雰囲気が違うようにも見えたから、“彼ら”はとりあえず二人は確実にいるのだろう。今のは分身とかじゃなくて、確実に違う二人だった。

ややこしくなってきた、と一人頭をかいた夜代はそれから2分後、ようやく授業に遅刻していることを思い出したのだった。

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