まだ遠い人
「天文部入って!」
「……え?」
ぽかーん。
まさにそういった顔で見つめられ、夜代は後ずさる。それから目を細めて、睨みつけるように声をかけた人物を凝視した。
「…まさか」
「そう!人違いでーす!」
「またかー!」
へらーっと笑って告げられ、夜代はショックに打ちひしがれた。
この男は天文部に入る気が全くない、私で遊んでいるのかと夜代は疑うが、やはりどうしてかここでも彼女はめげない。
何も言わずに真剣な目で新入生を見つめれば、新入生は笑った。
「あはは、必死だなー。そんなに入って欲しい?」
「うん」
「へー何で?」
「…かわいいから?」
「ふーん。あ!俺は?俺も可愛い?」
何故か楽しそうに尋ねてくる彼に、夜代は随分遅れて唖然とした。
雰囲気が毎回違すぎる。違すぎるにもほどがあるのだ。だがしかし、今回も可愛いとは思う。
「可愛い」
「ほんと?じゃあかっこよくは?」
「え?かっこよくはないかな」
「えっ…そっか…」
がっかりしたように項垂れられる。
それを見つめながら、夜代は話がそれていることを思い出した。
「…で、天文部に入っては、」
「あ、ごめん無理」
今度は夜代がうなだれる番だった。
それを見て彼はけらけらおもしろそうに笑った。
よく笑う人だった。
「まぁなかなか大変だとは思うけどさ、見つかったら一松のことよろしくねー」
入ってくれると、初めはほんの少し期待していた。でもそんな夜代の期待を見事に裏切り、やっぱり彼には入る気は欠片もなかったようだ。
彼は朗らかに笑って夜代の手を取ると、元気良く握手して去っていった。
「……というか、どういうことだ?」
夜代の中で謎は深まるばかりである。
151123
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