小宇宙 | ナノ
暗中模索

おれが部活に行かなくなってから、確かにもう随分経つけれど、そのことに対してどうやら奴らは不満があるらしい。
おそ松兄さんを除いた、兄たちの仕方が無いなというような目も、弟たちの心配するような目も、しつこいくらい僕を突き刺してくる。毎日毎日、チラチラと煩わしかった。
かといって、おそ松兄さんのようにすっかり飽きていつも通りに過ごされるのも何だか腹が立つけど。誰のせいだと思ってんだ。いや、結局のところ、僕のせいなんだけれども。
とにかく、まぁ、流石に最低限は気をつかって欲しいわけなんだが、そこまで大袈裟に気をつかってもらわなくたって結構なのだ。
部活に行くか行かないかは僕が決めることだし、僕と夜代さんの間にあったことは例え兄弟であっても結局関係の無いこと。
僕がこれから二度と夜代さんと話すことが出来なくても、僕の勝手、なのだ。

夜代さんのことを思い出して、胸を痛める事には未だ慣れない。───本当に、もう二度と話せないんだろうか。そう思うと、自分がまいた種なのに何故だか死にそうに絶望する。
時間が経つにつれて、どうしてあんな風に一方的に怒って、出てきてしまったのか、胸中で後悔が渦巻き始めていることは、自分が一番、唯一よくわかっていた。
それに比例するように僕の肩や脳みそにまとわりつく自己嫌悪。本当に、どうして、僕はあんなにカッコ悪くマジギレしてしまったんだろう。

慣れていた。おそ松兄さんの方が人付き合いが上手で、誰とでもある程度仲良くなれて可愛げがあって、他の兄弟たちだって僕より幾分もマシだって、そんなふうに思われること。
僕なんて、やる気がなくて、価値がないゴミだって、いない方がいいってこと。誰も本当は僕に興味無いこと、全部ちゃんとわかってるつもりだし、誰かに言われるまでもない。だから僕は、僕が松野一松であるという事が誰かにバレてしまうのがほんとはいつでも怖かった。ずっと紛れて知られないままいられればよかったけれど、成長すればそうもいかない。
そうして僕を見抜き、僕を選んだ夜代さんといるときだって、夜代さんは自分といるのなんて嫌なんじゃないかってずっと思ってたよ。
それでも一緒にいたのは、紛れもなく僕だ。だから、あんな風に今更怒るのなんて本当は可笑しい。夜代さんに、鬱陶しいって、今度こそ思われたに違いない。つらい。

ああ、だけど───…だけど、夜代さんだって悪いじゃないか。自己嫌悪と背中合わせで立っている怒りが、今になってもそんなふうに言う。僕はよく、このお前のせいだという気持ちと、自分が悪いという気持ちに板挟みになる。
前者の僕は、僕をクズで生きる気力なしで、邪魔者だって、そう思った上で、自覚した上で────あんな風に僕の手をとった夜代さんは、そんなこと考えたりしないって、信じていたんだ。
夜代さんは、夜代さんだけは僕の事を必要としてくれている、そう思いたかった。それなのに、現実はそうじゃない。あれだけ劇的に僕の手を引いておいて、そんなの、あんまりじゃないか。そんなふうに怒って夜代さんを責めていた。

夜代さんが孤独であればいい。ひとりぼっちで寂しがればいい。そんなの意地悪でしかないけれど、僕はいつもそう願っている。
そうして、夜代さんにとって、僕だけが唯一踏み込むことを許された人でいたかった。だって、そうじゃなきゃ僕は、ほんの少しも安心できない。一番じゃなきゃ意味が無い。唯一じゃなくちゃ、だめなんだ。

だって、だっておれのともだちは、夜代さんだけ。




「(………ともだち、なのだろうか)」



ともだち、というよりは先輩なのだが、先輩では、少し素っ気ないような気もする。前から言っているが、自分にとっての、夜代さんという人間との関係の括りは難しい。しかし単に部活の先輩というには、やはり少し足りなくて、違っているように思った。
かといって仲間では火傷するくらいには熱すぎるし、やっぱり、敢えて名前をつけるなら友人が一番近いように思う。夜代さんがそう思ってくれているかはわからないけれど、きっと、夜代さんは、僕がそう思うことくらいは、許してくれるだろう。たぶん。きっと。
そうしてやはり夜代さんは、僕の唯一の友人ということになった。
夜代さんがいなくなってしまったら、僕にはとうとう人間の友達がいなくなってしまう。高望みしちゃいけない。夜代さんにとって僕だけじゃないなら意味が無いなんて、考えちゃ駄目だ。

このままじゃいけない。どうにかしなきゃいけないのだが、しかしそうわかっていても怒りは収まらないし、それ以前に────なにしろ僕はあまりに、一人の期間が長すぎたのだ。仲直りの仕方も、もう忘れてしまった。ああ、人付き合いって、本当にしんどい。

160720
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