小宇宙 | ナノ
パンが焦げるまで

夜代はいつも、夜空を見上げながら帰る。
一松と一緒に早めに帰ることもたまにはあったけれど、それでも滅多に無いことだった。
大体は一松が帰っても1人で残って、遅くまで、ぎりぎりまで部室にいるのだ。だから、焼き始めのパンみたいな不完全な夕焼け空の下を歩くのは久しぶりの事だった。
期末テストが迫っていたことが原因である。それによって、天文部も今度こそ部活動を停止されてしまった。前回の中間のときは誰も見に来ないのをいいことにちゃっかり活動していたが、今回はバレてしまったのだ。
夜代は部活動を強制的に停止されたのが気にくわなくて、一松と帰る間も口を尖らせていた。



「一松、どっか寄ってこうよ」

「俺金ない」

「私もあんまりなかった…だめか…」



うーんと唸ったあと、観念したようにまたとぼとぼ歩き出す。一松はそんな夜代の後ろ姿をじっと見つめて、考えた。
────帰りたくないのだろうか。でも前に夜代さんは、弟が可愛くて仕方ないとか、お父さんもお母さんも賑やかだと言っていたし、家族が嫌いとかじゃないんだと思う。
単にこのまま決められた時間に帰るのが癪なのかもしれない。しかし、前から気になっていたが夜代さんが資料室にこもりたい理由って何なんだろう。



「ねえ」

「んっ?」



急に袖を引かれて夜代は驚いて後ろに転びそうになった。一松に押されて体制を立て直し、振り替える。



「どうしたの?」

「……猫」

「猫?」

「夏休みのやつ。いるかもしれないから、見に行こう」



まだ帰りたくないんでしょ。という言葉は考えた末に飲み込んで、一松は夜代の袖のはしっこを摘まんだまま歩き出した。
しばらくきょとんとしていたが、夜代はさっきまでの不満そうな顔をやめて、すぐに楽しそうに笑った。正解だったのだろうか、と一松は思った。



「久しぶりだなぁ、あの猫に会うの。一松はよく会ってるんでしょ?」

「うん、友達だし」

「いいなぁ」

「煮干持ってきてるし、あげよう、一緒に」

「うん!」



二人きりの帰り道に、勉強はいいのか、と咎める人は残念ながらいなかった。

160405
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