小宇宙 | ナノ
秋風が吹く

資料室での昼食に慣れてしまった私には、正午の日差しはあまりにも眩しく感じられた。
今日は体育祭で、それに相応しく晴れている。資料室は使う必要がないとのことで完全に閉め切られていて、私は外で食べる事を余儀なくされてしまっていた。
一松がいなければ、私の気分は地の底まで落ちていただろう。何しろまだまだ油断できない暑さだし、私は実は外で遊んだりわいのわいのするのが苦手である。インドア派だ。ハンカチ落としならやってもいい。



「私去年休んだから体育祭はじめてなんだよ。一緒だね」

「風邪?」

「そんなとこ」



日陰になっている外階段に並んで座ってお弁当をつつく。春だったらピクニック気分になれたかもしれないのに、と思うけれど、清々しい空気はそれなりに心地良くそれなりに満足した。一松は、いつも通りだるそうだ。



「いっつも思ってたんだけどね、一松のお弁当って素敵だよね」

「え、」

「お母さんが毎朝6人分作ってるの?あ、お父さんも入れたら7人か…すご」

「…そう?」

「この凄さがわかってもらえないって、そこがいちばん厳しいよね」



自分でお弁当を詰めているとわかるけど、やっぱりそれなりに手間だ。
一松はふうん、なんて言いながらお弁当を見つめていた。それにしても六つ子、出費とか一気に来そうだし、行事の度に大変そうだ。




「あっ夜代さんと一松いた!」



ふいに明るくて弾むような声が聞こえて顔を上げる。噂をすればというか、思い出していたタイミングで来るとは。
目の前にはそっくりな顔が3つ並んでいた。隣の一松はげ、と言っていた。



「ごめんな一松〜邪魔しちゃって」

「……別に邪魔とかじゃないけど」



楽しそうににやにやしながら絡んでいるのは、おそ松くんだろう。その後ろの元気そうなのが十四松くんで、隣で謎のポーズを決めているのは、カラ松くん。
みんなで示し合わせたみたいに、似せないようにしているんじゃないかってくらいに、個性があるなと何となく思う。否、そうなのだろうか。



「ねぇねぇ夜代、僕さっきすっげー速く走ったんだけど見ててくれた!?」

「あれが十四松くんだったんだ、すごいね」

「夜代先輩、この俺の活躍もカラ松ガールとして見ていてくれたか」

「カラ松くんが転んだのは見たよ」

「なっ」



といっても一緒にいた一松が「クソ松転んだ」とふき出していたから分かったんだけど。遠くから見ても見分けられるなんて流石兄弟すぎると思った。
しかし、なんというか似たような顔がこぞって俺の活躍がなんとか、と言ってるのは微笑ましい。お姉さんになった気分だ。全員声が被っててよく聴こえないけど。



「ねーねー夜代さん、俺さぁリレーやるから応援よろしく!」

「うんうん、わかった、オーケーオーケー」

「いや、よく聞こえないしうるさいんだけど」

「そうね、あ、一松は?何に出るの?」

「別に何も」

「一松兄さん玉入れだよ!「十四松」あ、ごめん」



慌てて口を抑えた十四松くんに一松がため息を吐く。玉入れとか、一松立ってるだけで終わりそうだなと思っていると、おそ松くんもそう思っていたらしく一松の肩に手を置いて真面目な顔して言った。



「いいんだ、それで。奇行に走ってひっくり返さなきゃもう何でも良いから」

「うんうん。あ、一松、寧ろ私の方に玉投げてよ。そっちの方が楽しそう」

「えっ何それすげー意味わかんない!一松それなら俺の方に投げて、俺がそこから入れるから!スリーポイント的な!!」

「や、ちょっとどっちも意味わかんないんですけど」

「俺もわかんないしたぶん夜代さんもわかってない!」



ジョークに真剣に返してくれるおそ松くんは、それじゃ応援よろしく!と言って二人を引き連れ嵐のように去っていった。元気だなぁ。
再び2人きりになると、すこしだけ風が涼しく感じられて、なんだ、もうすっかり秋だな。と思った。

160321
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