小宇宙 | ナノ
目を伏せる

ドアを開けてみたら、星空だった。



「うわ、なに」



外とのあまりのギャップにぎょっとして思わず声を上げて、それからこの中で一人楽しそうに游いでいるだろう人を探す。
室内はある程度暗かったが、窓が開いていたらしくはためく暗幕の隙間から秋風と光が漏れていて、夜代さんはすぐに見つかった。
なんとその人はプラネタリウムつけっぱなしで、小さなフロアチェアの上で丸まって寝ていた。



「……夜代さん」



呼んでみるが、反応はない。え、何、ほんとに寝てんの?エロ漫画とかでよくある無防備ってやつじゃないこれ?いや、天地がひっくり返ってもまさか夜代さん相手にそんなことにはならないと思うけれども。
おっかなびっくりもう一度呼んでみても、夜代さんはピクリともしなかった。本当にぐっすり眠っているらしい。
ていうかそのフロアチェアいつ持ち込んだの。この人はやりたい放題だ本当に。
いろいろ言いたいことはあったが、何となく起こしたり顔に落書きしたり、その他諸々の悪戯する気も起きなかったので黙って近くの椅子に腰を下ろす。触らぬ神に祟りなし。

だけどこんな暗さじゃ漫画も読めなくて、やることがなく仕方なしにつけっぱなしのプラネタリウムを眺めた。夜代さんが好きだと言ってきた星座を探そうと思ったが、風が暗幕を押し上げるたびにチラチラと陽の光が入るのが邪魔くさい。しかも微妙に寒いし。
なんで開いてるんだろうと不思議に思ったけど、まぁたぶん、換気とかだろうな。もう十分換気されていると思ったので、窓を閉めて再び椅子に座った。
当然だけど、外の部活動の声や吹奏楽部の楽器の音が遠くなって、やけに静かで薄暗くなった。しんとした室内は余計に寒くなったように思えた。

夜代さんは相変わらず寝ている。なんとなく近寄って、起きないかのぞき込んだ。
寝息がほとんど聴こえないから、死んでるって言われてもすんなりと納得できそうなくらいだ。
細くて柔らかそうな髪と、日焼けしていない白い肌が宇宙に溶けているみたいで、目を奪われる。なんか、なんだか。



「(消えちゃいそう)」



ふと思ったけど、すぐに馬鹿馬鹿しいと目をそらした。最近、いつか月に行ってしまうらしい夜代さんの変なノリに乗せられてきているのかもしれない、気をつけなければ。
はぁ、と溜息を吐いて、また椅子に戻ろうとした。その時。



「私の好きな星座あれだよ」

「!?」



突然聞こえた声に驚いてガタッと椅子を揺らし立ち上がる。うわ、何だよ。と思いながらばっと夜代さんの方を見ると、椅子の音に驚いたのか夜代さんも驚いたように目を丸くしていた。それから悪戯っぽく笑った。



「よ、一松」

「……驚かさないでくれる」

「そんなつもりは…まぁあった」



どきどき鳴っている胸を抑えながら夜代さんを睨みつければ、夜代さんは肩をすくめて起き上がり、欠伸をしながら部屋の電気を付けた。



「今日は一松来ないと思ってたからうたた寝してた。ごめん」

「……漫画、読みに来た」

「お、気に入ったのあった?」



まぁ、と頷いた。この前話に上がっていたとおり、あれから資料室の隅っこには夜代さんの持ってきた漫画が置かれるようになって、夜代さんとの話題も以前より増えていた。



「じゃあこれとこれ、二巻以降も持ってくるよ」

「どうも」



こうやって少しずつ、話せたらいいとは思う。夜代さんという存在は、きっと僕のこの高校生活の中で一番マシだと思っているし、上手くやっていきたい。出来ることならずっと。
ただ、そう簡単には行かないだろうなとなんとなく卑屈に思ったりもした。未だに、夜代さんをどういう括りにしていいかすらわからない。
どのくらい繋がりが濃いのかも、わからない。

150402
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