なんでもない日
一松が部室のドアを開け、また本の山の向こうで難しい顔をして紙と向き合っている夜代の前に座ると、夜代は視線を上げてふう、と息を吐いた。
「まぁ2年の2学期の、しかも中間だしね。大したことないよ」
「まぁね」
一松の返事に頷くと、夜代も頷いてさっさと紙をしまってしまった。あんまり結果はよろしくなかったらしい。
だれも彼も成績内申進路と大変だなぁ、なんて他人事みたいに一松は思った。まさに勉強の意義がわからない年頃だった。
紙をしまって、カバンの蓋をすっかり閉じる。すると、途端に夜代さっきとは打って変わって目をキラキラさせた。
「さて、終わったし、またしばらく本にゲームにいろいろ出来るね」
「そーだね」
「どうする一松、絵しりとりでもする?」
「ええ、まじかよ…なにそのチョイス」
「一松今日はズルしないでよ、四角かいて豆腐とか箱とか言うのダメだよ」
そう言いながらごそごそと鞄から紙を取り出した夜代は、何やら紙に絵を描き始める。じっと一松がそれを眺めていたら、ふと顔を上げて、てかさ、と首をかしげた。
「思ってたんだけど一松もなんか持ち込んでもいいんだよ、普段なにしてるの?」
夜代は肘をついて足をブラブラさせながら聞く。そう聞かれて改めて考えてみるが、自分も彼女と変わらずゲームに漫画にと思った以上に大したことはしていなかった。やりたいことがないのだからしょうがない。
「まぁ、漫画とか、ゲームとか」
「えー、じゃあ私もこんど漫画持ってくるよ!一松も何かおすすめあったら教えて」
「いいけど、どんなの」
「何でも読むんだけど……って言ったら困るね、うーん」
「じゃあ適当に持ってくる」
「ありがとー!」
夜代がりんごの描いてある紙を差し出してくる。受け取って何を描こうか迷っているとき、ふとその紙が、見間違いでなければ先程しまっていた成績表じゃないかと気づいた。
から捲った。
「あっ駄目駄目捲るな一松」
「じゃあもっとまともな紙使ってくれる?」
「わかったわかった、オーケー、絵しりとりはやめよう。ジュース持ってくるから何かテレビ見る?タブレットだけど」
まともな紙ないくせにそんなのあるのかよ。
一松がそう思っていると、夜代は「ここはもう私の家なんだよ」とどや顔で言った。よくわからない。
160317
prev next
BACK
TOP