距離感
その日一松が部室のドアを開けると、まず目に飛び込んできたのは机の上の本の山、そしてその奥にいる難しい顔をした夜代だった。
「何してんの」
「やばい」
一松が前に座ると夜代は腕を前で組んでそう言う。堂々としているのであまりやばさは感じなかった。とりあえず何がだと思ったが、ふと机の上に散らばる教科書群をみてああ。と納得した。
「そういえば、もうすぐテストだね」
「そうだよ……」
一松余裕だなぁ、と恨めしそうに言う夜代の前に、一松が朝コンビニで買って来たお菓子を置けば、夜代はあっという間に明るい顔をした。こういうところは本当に単純な人だ。付き合いは浅いが段々心得てきた。
「私これ好き、もらっていい?」
「そのために買ってきたし」
「わー!私が好きなお菓子を把握してくれてたのかいちまつ!」
「あんた持ってきたお菓子のほとんどはそういうじゃん」
呆れながらそう言っても嬉しそうに表情を緩めてぱくぱくと食べ始める夜代を見て、なんとなく一松も少しだけ和む。餌付けしてる気分だった。
「私も一松の好きなお菓子知ってるよ」
「いやどうでもいいけど」
「素っ気なさの極みだぁ…」
しょんぼりと肩を落とす夜代に、自分がそうしたくせになんて言っていいのかもわからなかったので、一松は夜代を放置して鞄から教科書とノートを取り出した。
他に大してやることもないし、これ以上話題を広げることも一松には難しく、その難しいことをやるのも面倒くさいし空回りするのも嫌だった。
がっくりしていた夜代はちらりと顔を上げそんな一松に気づいて、なんて言おうか迷った後、とりあえず笑っておいた。
「一松くん、わかんないところあったら先輩に聞いていいよ」
「あんた勉強できるの」
「先輩ですからね」
「いや、先輩だけど」
「先輩だからできるんです」
「あ、そう…」
「胡散臭そうに見ないでよ」
160317
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