小宇宙 | ナノ
謎々宇宙人

夜代に捕まって夜代との約束を裏切った日以来、一松は彼女から逃げる必要が無くなって廊下を悠々と歩くことができるようになった。
約2ヶ月もの間毎日飽きもせずに追ってきていた執念が嘘のように、夜代はあれ以来一松を絶対に誘わない。
かと言って縁を切る気も特にないらしく、目が合うといつも小さく笑って誰にも見えないように小さく手を振ってきたりした。
そんな時一松は、自分が夜代を無意識に見ていたことに気がついて、思わず誤魔化すようにわざとらしいため息と舌打ちをこぼす。
夜代がどんな顔でそれを見ているかは知らない。ひょっとしたら傷ついた顔をしているかもしれない、と一松は思った。
思ったけれど彼女は次に目があった時も態度を変えたりしないので、傷つくどころか気にしていないようにも思う。そんな夜代を見て、尚更一松は苛立ちため息を吐くのだった。いっそ傷ついて目を逸らせばいいのに。
兄弟たちは一松に「いい友達できてよかったじゃん」なんていうが、彼女は友達なのだろうか?
考えてみたが、すぐにやめた。どうでもいい、くだらないことだ。それに夜代が自分をどう考えているかは知る由もない事だし、考えようもない。

そうして、夜代と一松のなんとも言えない関係は夏休みに入るまでつづいた。
一松が彼女から逃げなくなってからというもの夜代と一松はよく廊下で出会ったが、その度に夜代が「どうやら縁も運もある程度あったらしいな」と密かに思っていたことだって一松は知らない。一松には、何にも知らされていない。




「夏休みになったら夜代に会えなくなるね」

「……だから?」



十四松がバランスボールでゆらゆらしながらふとそんなことをいうのを聞いて、一松はむっとする。
それを察しているのかいないのか、おそ松は雑誌をながめゴロゴロしながら適当に言った。



「せっかくだし夏休みデートに誘っちゃえば?」

「はっありえないでしょ」

「というかさ、あの子ってクラス何組なの?」



トド松の問いに返事を返せるものはいなかった。
全員がそういえば、と首をひねる。彼女に関しての疑問は、六人全員そろって尽きなかった。



「結局何者なの?あの子」

「たぶん宇宙人」

「えーー!?そうなのー!!?!?」

「なん…だと……!?」

「ちょっと一松失礼だろ。十四松もカラ松も驚かないで、嘘だから」

「そもそもなんで一松なんだ?」

「あ、それ僕も気になったんだけど、なんか聞きづらい雰囲気で聞けなかった」



というか、どうせはぐらかされちゃうだろうなって。理由がないわけじゃなさそうなんだけど。
そんなトド松の言葉におそ松はようやく雑誌をおいて座り、真剣な顔をして腕を組んだ。



「………やっぱさ、あんだけ一生懸命だったところみるに、あの子一松のこと……す……す……!」

「すき!?まじで!?」

「恋に理由はいらないもんね…!」



何故だかあっさり納得し、どよめく五人。「一松兄さんいつの間に青春してたんだ…!」「まさか童貞卒業は一松から…!?」「はやい!」などなど、好き勝手に話を進められ、一松はとうとう声をあげた。



「…だから!ありえないって、大体、あんな変な奴御免だし」

「でも結構可愛いよな」

「僕やっぱり天文部入っちゃおうかな〜」

「……勝手にすれば?いいんじゃない」

「そんなことを言うと彼女はきっと悲しむぜ、ガールをかなしませ、ちゃ…」



サングラスを取り出しかっこつけてそう言ったカラ松を一松は殺気を込めて睨みつける。
途端にしゅんとしてしまったカラ松をちらっと見てから、おそ松は雑誌を拾ってころがった。



「そんなピリピリすんなよー」

「だってこいつ最近おかしいし、誰なのほんとうざいんだけど」

「あー確かにそれは思う」

「えっ」




明日で一学期は終わる。
ひょっとしたら夏休みが明ければ、もうあの女は自分にかまったりしないかもしれない。
所詮それくらいのものだ。彼女との間には、振り返れば大した交流なんてないに等しかった。
一松はそう考えて、そうして一人勝手に心が痛んだ。どうせどうせ、長続きしないくせに、って。


次の日、なんにも知らず懲りずに手を振ってきた夜代を見て、その優しくやわらかな仕草に一松はまた、馬鹿なやつ。と思った。

151202
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