許される
正直、だいぶ前から夜代もそんな気はしていた。
「そんなめんどいことなんでおれがしなきゃいけないわけ」
「えっ約束したじゃん」
夜代が予想したとおりだ。案の定裏切るように断ってきた一松に、あれだけ逃げてきた人があっさり入るわけないよな、なんて夜代は内心思う。
入る気なんてないって、ほんとはもうずっと前からわかっていた。彼はひねくれている。
「そんなのした覚えないけど。あ、クズだと思った?クズですよ、がっかりしたでしょ」
一松は自嘲するように吐き捨てて笑った。
夜代はそんな一松から目をはなさず、じっと見つめ続けてみる。
視線に気づき、一松はたじろいだ。
「……な、なに」
「全然いいよ、クズでも」
「…は?」
「クズでもいい」
「…っ」
「なんだか、よく分かんないけど許せる」
すっと背筋が冷えるのを感じた。
一松は、どうしてかひどく恐ろしくなった。
言葉だけで見ればクズである自分を肯定する言葉であるのに、そこに含まれているものは期待のような、求めるような…そんなどこまでもプラスな感情。
そんなものを向けられ、彼はまるで自分が責められている気持ちになった。
「……なんだよそれ、うっざ。なに、そんなに部員欲しいんだ?こんなゴミに媚びてまでご苦労さま。まぁ入ってやらないけど」
「そっか」
「…ていうか、もう、追いかけないでくれる?うざいし、馬鹿みたいだし、あいつらとも、仲いいみたいだし……別のやつ誘えよ」
つっかえながらもその声は低く、イライラを隠そうともしない一松に夜代は一層にっこりと笑った。そうして面くらう一松につづける。
「じゃあさ、たまにでいいからきてよ。全然人がいなくてね、私さみしいんだ」
「………」
さみしそうには見えないよ。
案外あっさり引いた彼女に驚きながらもそう言おうとして、一松はやめた。それを言うと余計なことまで言ってしまいそうだった。
黙って踵を返す一松に、夜代はもう何も言わなかった。それがまた心にもやもやを残して、一松は舌打ちをした。
151201
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